「い、いや、これは別に六花に言われたからとかではなくだな。昼間、強く言いすぎたと反省していたし、その……くそ、今さら言い訳なんて情けないだけか」
しどろもどろになりながら、もう一度「すまん」と小さな声で謝った翡翠。
今度は『穴があったら入りたい』とか思ってるんだろうな……。
──ほんと、わかりやすいんだから。
おかしくなってつい笑ってしまう。本当に、この神さまは可愛いところが多すぎる。
「もういいよ。私も悪かったし……ごめんね、翡翠」
心臓の音が、心なしかいつもよりはやい。それは胸の奥深くに実をつけている小さな気持ちが、少しずつ、けれども確実に成長し大きくなっていることを感じさせて。
そう実感すると、なんだか無性に顔が熱くなってきた。
「……やれやれ、困ったカップルですね。いっそ結婚してしまえば良いものを」
「けっ……⁉」
私と翡翠はふたりして声を重ねながら顔を見合わせ慌ててそらした。
「ふふー、まっかっかねー」
りっちゃんが笑い、コハクが笑い、笑いの輪は広がって、また楽しい時間が過ぎていく。
こんな時間が幸せで、温かくて。だから、どうしようもなく願ってしまった。
こんな時間がずっと続きますように、と。
この世界に、永遠なんてないと知りながら。
広い屋敷の一室でみんなが集まって食べる夜ご飯は、逃げたあのアパートでひとり食べていた頃より何倍も、何十倍も美味しい──そう、改めて思ったのだった。