「とにかく、真澄。無理はしないと俺と約束しろ」

「う、うん。大丈夫だよ」


 コハクにしろ、翡翠にしろ、あまりに過保護で心配性すぎるから私は余計に強くならねばと思うのに、ふたりはそれにまったく気づいていないらしい。

 許嫁と式神。立場は違っても、やっぱりどこか似たもの同士だなと思う。


「……ママ」


 ふぅとため息をついた私のもとへ、顔を伏せたりっちゃんがとぼとぼと歩いてきた。

 隣で「マ……⁉」と今度こそすすっていたお茶を噴き出した翡翠。呆れたように布巾を手にする時雨さんに任せ、私はりっちゃんに向き合う。

 無言のまま腕のなかにおさまった彼女は、スンと鼻を鳴らした。


「り、りっちゃん?」

「六花……やっぱり、パパちゃまきらい」


 ズガン!と隣でなにか激しいショック音が聞こえたような気がした。

 恐る恐るその音の発信源を見れば、青白い顔で困惑したようにこちらを凝視する翡翠。
聞きたいことがありすぎて、なにから聞けば良いのか分からない顔だ。


「……パパちゃま、ママのこといじめるから、きらい」

「りっ、りりりりっちゃん⁉ だから、これはいじめてるわけじゃなくてね……⁉」


 これ以上ダメージを食らったらショック死してしまいそうな翡翠に、コハクは同情の目を向け、時雨さんは珍しく肩を揺らして笑いをこらえていた。


「待て……なにがどうしてそうなった……。六花、おまえなんで真澄を……」

「あの、こ、これは私がりっちゃんのママになりたいって言ったからなんだけど」

「ママになりたい……⁉」


 さらなる衝撃を受けたのか、翡翠は頭を抱えてそれきり黙り込んでしまった。

 まあまあ食べましょうか、と場をおさめてくれた時雨さんによりなんとか食事を再開しつつも、翡翠は魂が抜けたようにぽへーっとしたまま食事が進まない。

 さすがに気の毒になってきて、りっちゃんに「ほんとはパパも好きだよね?」と尋ねてみる。どうか気が変わっていてくれと祈りながら。

 すると、悩むように「うーん」とうなりながら、りっちゃんは唇をとがらせた。


「……パパちゃまが、ママにごめんなさいしたら、すき……」

「──すまなかった、真澄」

「即答!」


 突然キリッとした顔で大袈裟なほど私に頭を下げた翡翠は、その後すぐにはっとしたように目を見開いて、恥ずかしそうに嘆息した。どうやら脊髄反射だったらしい。