「……だめだ、と言ったところで、真澄はやめないだろう?」
「っ、うん」
ため息混じりに言った翡翠に、私はすばやく顎を引いた。
「──まあ、昼間の件は差し置いて、霊力をコントロール出来るようになるのは悪いことじゃない。特に真澄の場合は、力が膨大な分あらゆるところで影響を受けやすい傾向があるからな。その点は、いずれどうにかしようとは思っていた」
「影響、っていうのは」
「真澄が悩んでいた夢見なんかもそれにあたる。あれはかの昔、宮中で霊力の強い巫女がよく行っていたように記憶しているが……」
時雨さんが納得したように「あぁ、」と言葉を続ける。
「いわゆる未来視ですね。夢の中で先の出来事を視ることが出来る力です。ともあれ未来などちょっとした弾みで変わるものなので、決して百発百中というわけではなく、当たりやすい占い程度のものですが。なるほど、真澄さんはその力も受け継いでいらっしゃるので?」
「真澄は夢見だとわかっていなかったようだがな。意図的でない夢見は、主に無自覚化で霊力が暴走し起こるものだ。自身の霊力の本質を知り、その流れを確実に把握出来るようになれば、うつしよに戻っても発動することはなくなるだろう。……そういう意味での修行なら、俺が止めるべきじゃない」
「えっと……つまり、許してくれるってこと、だよね?」
「ただし、ひとりではするな。真澄の霊力が暴走したら何が起きるかわからん。──時雨、悪いがその修行とやらに付き合ってやってくれ」
突然話を振られた時雨さんは、しばしきょとんとしてから、ややあって苦笑する。
「自分は構いませんが……翡翠はそれで良いんですか?」
「教えるのは不得手だ。不本意極まりないが仕方あるまい」
「素直じゃないですね。真澄さんとの時間が削れるのが寂しくてたまらないって顔に書いてありますよ」
お茶をすすろうとしていた翡翠は、時雨さんの爆弾発言に噴き出しかけて激しく咳き込んだ。あわててその背中を撫でながら、私は呆れ気味に笑う。
「そんな一日中修行するわけでもあるまいし……。お店の手伝いもこれまで通りするし、生活に支障のない程度にするから大丈夫だよ」
「ええ、真澄さんは器用ですから、コツを掴むまで時間はかからないでしょうしね。毎朝一時間ほど修行の場を設ければ充分です。あんまり根詰めるのも逆効果ですし」
そんなもので良いの?と目を瞬かせた私に、コハクが困ったように眉尻を下げた。
「真澄さま、霊力というのは心身を大きく使うものなので、たとえ一時間といえど集中して使っていたらそれなりに疲労するのですよ」
「そうなんだ……」
意識して霊力を使ったのはコハクを解放する時くらいだし、そういった感覚はいまいちわからない。結界を張るときだけは、わりとうまくコントロール出来るのだけど。