「──うん。だからきっと、このままかくりよで暮らしていけば、私は自分の力をだんだん好きになって受け入れていけると思うんだ」
そこで一拍置いたのは、私が私に対して覚悟を問いかけたからだ。
けれど、その小さな迷いはいつの間にかぽろぽろと涙を零しているりっちゃんの顔を見たら一瞬で吹っ飛んだ。さきほど誓ったばかりの想いを噛みしめる。
「でも、それはただの甘え。翡翠やコハクに守ってもらいながら生きていくのは簡単だけど、私はこの力を持って生まれた人間としてちゃんと向き合わないといけない」
ずっと逃げてきたことだ。何を今さらという気持ちは私自身にもある。
それでもこの先、このかくりよで生きていくという選択をするなら、私は正々堂々と胸を張ってこの世界を歩けるようになりたい。ううん、ならないといけないんだ。
いつかの、祖母のように。
「だから……翡翠。私、修行したい」
「…………」
「術者になりたいとかそういうわけじゃなくて、ちゃんと自分の霊力を操れるようになりたいの。いざというときに、自分だけじゃなくて大切な人を守れるように」
霊力が自由に操れるようになれば、結界の精度も比例してあがると祖母は言っていた。
結界術自体はそこまで難しいものじゃないけど、確実に身を守るならもっとしっかり習得しておくべきだろう。それに、もしかしたら式神黙示録に封印されている式神も、安定して呼び出せるようになるかもしれない。
枝垂れ村の瘴気のことも、やっぱり見て見ぬふりは出来ないし。
「だめ、かな」
翡翠はぴくりとも体勢を崩さないまま、ただ少しだけ眉間に皺を寄せて私の話を聞いていた。
緊張感の漂う沈黙に息を詰まらせそうになりながら、私は静かに答えを待つ。
やがて翡翠は浅い息を吐くと、閉じていた目を開けて不思議な形をした銀色の瞳をこちらに向けた。私と翡翠の間でピンと糸を張っていたなにかが、少しだけ、緩む。