「問題はおばあちゃんの遺品……」


 両親の遺品の下にこれでもかと言わんばかりに敷き詰められている大量の書類。

 全て元からこの箱に入れられていたものだが、どれも古めかしいばかりで用途がまったく掴めない。紙面には流れるような筆字でなにかが書かれてはいるものの、雨にでも濡れたのか、全体的ににじんでしまっていて解読不可能なのである。無論、祖母がなによりも大切にしていたものだし、遺品ではあるのだけれど。

 とはいえ、さすがにこれから祖母の面影は感じられないので、幼い頃に祖母からもらった手鏡の方を形見だと思うようにしていた。

 この紙の束にいったいどれほどの価値があるのかは、全く想像もつかないし致し方ない。

 どちらにしろ、私にはあまり心地よくないものなのだ。どうも得体の知れない、先祖代々から受け継がれてきた数多くの念のようなものが、見るからに滲み出ているから。

 ──怖いなあ、怨念とかだったら……。

 そんなことを思いながら恐る恐る紙束を掴み持ち上げてみると、パサッとなにかが落ちた。古すぎて中身が抜けてしまったのかと、慌ててもとに戻そうとした手が止まる。


「なんだろう、これ」


 畳のような藺草色をした硬質の表紙に留められた古い紙束。

 ところどころ湿って黄ばんでしまってはいるけれど、他のとは明らかに雰囲気が違う。
ふと気づけばその表紙の上に白ヤモリちゃんが身体を乗せて、何かを訴えるようにこちらを見上げていた。白い尻尾が導くように撫でた部分を目で追ってみる。


「───式神、黙示録?」


 他の筆字とたいして変わらないのに、どうして読み解けたのかはわからない。

 しかし何かにつき動かされるように表紙の文字を読み上げた瞬間、心臓がどくんっと強い音を立てた。鼓動が全身に波打って伝わり、芯がじんわりと焦げるような熱を持つ。