「…………」
「真澄さん? 顔が赤いですが、大丈夫ですか?」
「っ、な、なんでもないです!」
時雨さんに心配そうな眼差しを向けられて、危うくお茶碗を取り落としそうになる。
──ほんと、もう、私のバカ!
考えないようにと意識すればするほど思考が向いてしまうのは悪い癖だ。私には、それよりも先にどうにかしなくちゃいけないことがあるというのに。
だいたいりっちゃんのご両親のことを考えたら、あやかしの結婚はもしかしたら人と価値観が違うのかもしれないし。──そうだ。今は『恋』に怠けている場合じゃない。
「……翡翠」
ゆっくりとお茶碗を置き、少し冷めた緑茶で喉のものを流し込んでから、私は覚悟を決めて切り出した。翡翠はぴくりと反応し、まるでわかっていたかのように「なんだ?」と静かにこちらへ視線を向けた。脈が、少しだけ早くなる。
「昼間の、ことなんだけど」
とたんに不安げな顔になったりっちゃんが、私と翡翠を交互に見てわたわたとし始める。
けれど私がそばに行く前に、時雨さんが頭を撫でて落ち着かせてくれた。
続けて、と優しく目を細められ、心の中で感謝しながら続ける。
「私、翡翠が私を心配してくれてるのは充分理解した上で、もう一度ちゃんと考えたんだ。それで、ひとつ答えが出たから……聞いてくれる?」
「……聞く分にはな」
目を伏せて腕を組んだ翡翠に「ありがとう」と目を細め、私は胸に手をあてた。
「少しだけ、昔の話だけど」
これを話さなければ、なにも進まないから。
「知っての通り、私は生まれつき人ならざるモノが見える人間でね」
生まれた時から身に宿していた霊力は、同じく能力者だった祖母と同等、いや、それ以上だと言われていた。今の世に残る賀茂家の血筋で唯一の能力者だった祖母は、生まれ出た私を見た瞬間にそう気づいたらしい。