「──よし、あとは煮物だけだね」
りっちゃんの作ってくれたねじりこんにゃくを投入し、しばらく煮込んでいた鍋の火を調節しながら、私は落ち着きなく時計を確認する。
もうすぐ十八時半。そろそろ翡翠が帰ってくる頃だろう。
あんなことがあった後だ。さすがに顔は合わせづらいけれど、今回悪いのは間違いなく私だし、ここはきちんと大人としての対応を見せなくては……。
緊張しながらそんなことを考えていたさなか、玄関の戸が開く音が聞こえた。
ぱっと顔を上げたりっちゃんが、トタタッと走っていく。
「パパちゃまーっ!」
疲れた様子で居間に姿を現した翡翠に勢いよく飛びついたりっちゃんは、嬉しそうにその場でぴょんぴょんと跳ねる。翡翠も翡翠でそんな娘の様子に驚いたらしく、説明を求めるように私を見て、二度驚いたように目を見開いた。
「……えと、おかえりなさい」
「ああ……」
戸惑ったように瞳を揺らす翡翠へ、中庭に干してある洗濯物を取り入れていた時雨さんが振り向いて「おかえりなさい」と声をかける。その顔に意味深な笑みが浮かんだ。
「ちょうど良いタイミングで帰ってきましたね。今日は真澄さんと六花が夕ご飯を作ってくれてるんですよ。あなたのために」
「六花も?」
「ええ、楽しみでしょう? というわけで、ほら。コハクくんがお風呂洗ってくれたから、翡翠は先にお風呂に入ってきて下さい」
夕飯の準備がまだ完全に終わっていないことを悟り、時雨さんが気をきかしてくれたらしい。促されるまま、未だ混乱したような顔でとぼとぼ浴室へと歩いていく翡翠の背中を見ながら、思わずクスッと笑ってしまう。