そう考えれば翡翠に対しての『パパちゃま』もそうだ。恐らく『ちゃま』は敬称。翡翠に本当のパパになってほしいという思いはあれど、そこは子供なりの遠慮があるんだろう。

 まあ翡翠は「俺はパパじゃない」と言ってしまっているし、子供とは思えないほどの気遣い屋さんであるりっちゃんが先に踏み込めないのも無理はない。


「ママ、あのね、六花ね」

「うんうん」

「ママのこと、だいすきなのよ」


 むふふといたずらっ子のように笑った娘に、ママになって早くも胸を撃ち抜かれる。

 思わずぐはっと心の声が零れ落ちそうになりながら、今度は私が抱きしめた。


「りっちゃんのこと、ママも大好きだよ」


 自分のことをママと呼ぶ日が来るなんて想像もしていなかったけれど、意外にもすらりと口から零れた。たった二文字の、特別な呼び方。

 恥ずかしいような、嬉しいような、なんとも言えない複雑な気持ち。

 りっちゃんとの距離がぐっと縮まったのをひしひしと感じる一方で、私は改めて自分の心に向き合わなければならないと思っていた。

 ──そう、私は強くなりたい。

 この力を使いこなせるようになりたい。

 翡翠にはああ言われたけれど、ならばなおさらこのままじゃ駄目なのだ。守ってもらうのは簡単だけど、自ら守りたいと思うものが出来た今、甘えてばかりではいられない。

 ──けれど、その前に。


「りっちゃん、今日の夜ご飯はママと一緒に作ってみない?」

「夜ご飯? 六花も作っていいの⁉」

「うん。翡翠も……パパもりっちゃんが手伝ってくれたって知ったらきっと喜ぶよ。たぶん今日は疲れて帰ってくるから、美味しいご飯食べて元気になってもらおう」


 やる!と涙を振り払ってきらきら瞳を輝かせたりっちゃんに、私は微笑んだ。