もしも、人ならざるモノたちを見える力がなければ、私はきっと世の女の子たちと同じようにごく普通の友だち関係を結び、ごく普通の恋をして、いずれは彼らを見えないごく普通の男の人と結婚していただろうけど。
でも、私にはこの力がある。
かつて陰陽業で名を残した賀茂の家に生まれ、人ならざるモノを見る目を持ち、彼らと渡り合えるほどの強い霊力をこの身に宿している。
それはもちろん私の本意ではないけれど、翡翠にも時雨さんにもコハクにも──そしてりっちゃんにも、この力がなければ出逢うことはなかった。
そう考えたら、私の運命もまた悪くないかもしれないと思えるから。
「……どうかな? 私をママにしてくれる?」
これからは、もう少し自分に自信を持とう。
そうじゃなきゃ、誰かを守ることなんてきっと出来ない。
そんなひとつの決意を胸に尋ねると、りっちゃんは言葉よりも先に抱きついてきた。
それから心ゆくまで私の胸元に顔を擦り付け、ようやく顔をあげて涙で濡れた顔をめいっぱい綻ばせる。まるで、満開の花が咲くように。
「六花、ママは真澄ちゃまがいい!」
嬉しそうに笑いながら大粒の涙を流すりっちゃんに、私はそっと見守ってくれていたコハクと笑いあった。しばらくして鼻を鳴らしながら泣き止んだりっちゃんは、どこか興奮したように私を見て、なぜか恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「あの、あのね……ママちゃまじゃなくて、ママって呼んでもいい?」
「うん? もちろん。りっちゃんが呼びやすいように呼んで良いんだよ」
ぱあっと顔を明るくしてはにかんだりっちゃんは、嬉しそうに「ママ」と連呼しはじめた。
その言葉の響きを口にしたいのか、何度も何度も。
ママちゃまとママ、か。
意味は同じだが、どうやら彼女にとってはきちんとした線引きがあるらしい。