「時雨さんと……りっちゃんは?」

「時雨さまは引き続き店番を。六花さまは、あれからお部屋にこもってしまって……」


 あんなに震えながらも、私を心配してくれた小さな手を思い出す。

 りっちゃんには情けないところを見せてしまった。あのとき一番泣きたかったのはりっちゃんだったのに、その手を握っていてあげられなかった。

 今さら後悔が押し寄せてきて、私は深くため息をつく。


「──先ほどの件、ですが、時雨さんによると、どうやら座敷族には『純血でなければならない』というしきたりがあるそうです」

「純血……? ええと、一族の中のみで子孫を繁栄していく、ってこと?」


 コハクは頷く。


「六花さまのご両親が、そのしきたりに反してしまったのでしょう。反した者は有無を言わさず処刑。純血でない異種間で生まれてしまった子供は禍を呼ぶモノとして忌み嫌われ──六花さまの他にも、これまでしきたりに反した存在は多く村から追放されてきたようです。統隠局で無事に保護されれば良いですが、間に合わずそのまま、の場合も」

「そんな、ひどい……っ!」

「本当に、むごい以外の何者でもありません。ですが六花さまの場合は、どうも混血の座敷童というだけでは済ませられない事情がおありになるようですね。官僚である旦那様がじきじきに引き取られるほどですし、恐らくさきほどの『神に近い存在』という言葉が関係してくるものと思われますが……申し訳ありません。そこまでは聞き出せませんでした」


 お役に立てず、とうなだれるコハクに十分だと首を振り、私は拳を握りしめた。


「……妖にとってのしきたりって、そんなに大事なものなの?」

「今の世ではわかりかねますが、かの昔、こういったしきたり絡みの儀式で生贄となった者は少なくありませんでした。人と比べ長い時を生きる妖には、血にひどく固執することも多いと聞きます。……ともあれ、旦那様は件のしきたりを『古い』と仰っていましたし、多少は解れていると信じたいものですね」


 私を慰めるように、コハクは眉尻を落としながらわずかに微笑んだ。その優しい瞳に胸をぎゅっと締め付けられながら、さきほど異様なほど怖がっていたりっちゃんを思い出す。