「コハクはずっと、私を見ていてくれたんだもんね」
言葉は通じなくても、白ヤモリちゃんが私を大切に思ってくれていることは気づいていた。そして私は、小さな体でそばにいてくれる家族に、ずっと甘えていた。
誰にも打ち明けられない胸の内を聞いてもらったことも、一度や二度じゃない。
「……あなたが生まれた時からずっと。でもボクは自分で封印を解けない。だからあの姿であなたのそばにいることが、唯一出来ることでした」
そう、だからこそ、コハクがこの姿になって式神だと知った時も、すんなりと受け入れられたのかもしれない。
家族だった。両親と祖母を亡くしてから、本来の私を理解してくれる人がひとりもいなくなった世界で、唯一すべてを知りながらそばに居続けてくれた存在だった。
今もそうだ。コハクはどんな時でも私の味方でいてくれようとする。
たとえ私が悪くても、コハクだけは受け入れてくれようとする。
そうさせてしまうのは、私がコハクの主人だからだ。式神は主人に忠誠を誓う。どんな時でも主人のために動く。それが式神にとっての生きる意味だから。
情けない、と思う。あの場で、私は逃げちゃいけなかった。
……どんな主人でありたいか、私は改めて考えないといけないかもしれないな。
気持ちを落ち着けるために深呼吸をしてから、私は改めてコハクに向き直った。
「あれから、どうなったの?」
「無論、依頼はお断りしました。あの男は死刑に処すべきだと言ったのですが、事情が事情だけにそうもいかないようで。とにかく統隠局へ連行すると翡翠さんと共に出ていかれました。興奮しているようだったので、半ば強引に黙らせましたが」
「そう、なんだ」
統隠局へ、か。
一生拷問の刑に処すとか恐ろしいことを言っていたのを思うと、今頃どうなっているのか少し不安になる。無論、庇うつもりはないけれど。
りっちゃんに酷いことをした。事情はわからないが、その事実を知ってしまった以上、私は彼を、彼らを許すことなど出来ないから。
それでも村のことを思ってここまで来たことを考えると、心の底から悪いあやかしには思えないのだ。少なくとも村の子どもたちを想う発言はしていたように思う。
やはり翡翠の言っていた『古いしきたり』とやらに問題があるのではないだろうか。