「たしかに真澄の力は強い。祓うという意味でも適任かもしれない。だが、それは修行していればの話だ。たとえ陰陽師の末裔でも力があるだけでは何もできない」

「…………」

「封印術は極めて高度な術式だ。それゆえに、術者の負担も計り知れない。式神ひとつ召喚するのに力を暴走させてしまうようでは、封印する前に確実に命を落とす。そんな危険を冒して、俺がおまえを使うわけないだろう」


 淡々と述べる翡翠の声は、まるで無機物のようだった。

 私を想ってのことだとわかってはいても、どうしようもない悔しさがお腹の底をじっとりと渦巻く。翡翠の言っていることはもっともで、反論なんて出来ない。


「それは、そうかもしれないけど……」


 だからこそ、無力な自分が嫌で嫌で仕方がなくなってしまう。


「──強く言いすぎたのは謝る。だが俺は……」

「っ、もういい! ……もう、いいよ。わかってるから」


 思わず声を張り上げて、堪えきれなくなった涙を見せまいと翡翠へ背を向けた。

 情けない、泣くなんて。こんなの、ずるいだけだ。


「真澄さま……っ!」

「……コハク。りっちゃんをお願い」

「ますみちゃま……」

「ごめん、りっちゃん」


 まだ怯えたままながら私を気遣ってくれるりっちゃんをコハクへ預け、私はその場から逃げ出した。逃げるなんて卑怯だとわかっている。わかっているけれど、これ以上あそこにいたら、言ってはならないことを言ってしまうような気がした。

 私は着物が乱れるのも構わず廊下を駆けて、そのまま寝室へ逃げ込んだ。

 さきほどまでりっちゃんが寝ていた布団に顔を埋めて、わきあがってくる嗚咽を噛み殺す。小さなうなり声をあげながら、私は強く下唇をかみしめた。

 ……なんで、私が泣いてるんだろう。

 私が無力なことなんて最初からわかっているのに。

 これまでだってそうだったのだ。必要とされた事なんて一度もなかった。私の力も、存在も。それは、誰よりも自分が一番わかっていたはずだろう。

 ただ、それでも思ってしまった。

 助けたい。助けてあげたい。

 もしも、嫌いで仕方なかった自分の力で誰かを救えるのなら──と。


「なに、やってんだろ……」


 だから私のこの力がなにか役に立てないか、そう尋ねたいだけだった。なにも私がすべて解決しますなんて、そんな無責任なことを言うつもりはなかったのだ。

 けれど、それでも、見て見ぬ振りなんてしたくはなかった。

 私は、私の力を、これ以上嫌いになりたくは――なかった。