「本当に救いようのない阿呆共だ。六花は呪われた子なんかじゃない。むしろおまえたちよりもずっと高等な存在だ。それこそ──神にも同然のな」
「なん……だと……?」
「おまえたちのような愚か者のことを一族の恥だと言うんだ。本当に村を救いたいのなら、その性根を叩き直してから来い。なんだったら子どもは統隠局で預かって、おまえらジジイだけでどこか遠方まで飛ばしてやろうか」
翡翠は猛烈な怒りを燃やしていた。私には事情はわからない。ただこの男が、この男の村のあやかし達が、りっちゃんにした残酷な行いを翡翠は知っていたのだ。
そんなの、トラウマなんてものじゃない。りっちゃんにとっては、この男の存在自体が地獄なのだ。思い出したくない記憶を呼び起こしてしまったんだろう。
こんな人たちのもとに、まだ子どもがいるのかと思うとゾッとする。
しかも──。
「……子どもが、体調を崩してるって言いました?」
恐る恐る、口を開く。
「あ? ああ、そうだよ! 枝垂れ村から流れてくる瘴気のせいで、うちの童子たちはみんな力を弱めてる。このままだと一人前の座敷わらしにもなれないまま、村ごと朽ちて終わりだってさっきから言ってんだろ!」
投げやりになって言い放ったお客さんの言葉に、泣きじゃくっていたりっちゃんがピクリと反応した。自分と同じ座敷わらしたちがそんな状態にいることを知ってショックだったのか、茫然と首を横に振る。
「みん、な……」
不安そうに呟いたりっちゃんの頭を撫でながら、私はキュッと唇を噛みしめた。
この人は許せない。当然だ。翡翠の言う通り、同じ苦しみを味わえば良いとすら思う。
けれど、被害に遭っている子どもたちがいると知ってもなお、助けないで見逃すなんて、私には出来ない。……そんなこと出来るはずがない。
それに、さっきの話では枝垂れ村という場所の方がずっと危険な状態なんだろう。もしそこにも、まだ取り残された人たちがいるのなら、早急に助けてあげるべきだ。
……人間の術者なら助けられる、と翡翠は言った。
「翡翠──」
「真澄には無理だ」
「っ……」
私が言おうとしたことを察したのか、翡翠は厳しい声で遮った。振り返った瞳は凍てつくほど冷たく、思わず全身の毛が逆立つ。