「だって、どうしてここに……里の連中であんなに探したんだぞ……!」
「はっ、そんなのこの俺が匿っていたからに決まっているだろう」
「なぜあなたのような人が……! これは幸どころか、疫病を呼びよせる力を持った呪われた子なんだぞ!」
「おまえらのようなクズが六花をこれ呼ばわりか? ふざけるのも大概にしろ!」
声を荒らげた翡翠がドサッとお客さんを投げ捨てる。
一方で私は、さっきの言葉を聞いた瞬間、りっちゃんの震えが強くなったことに気づいていた。まだ幼い女の子をこんなにも怯えさせるなんて普通じゃない。明らかにこの男はりっちゃんにそれほどの『なにか』をしたのだ。
だけど、この男は、いったいなんの話をしているのだろう。
本当にりっちゃんのことを言っているのだろうか。
──呪われた子、ってなに?
「お、おまえに何がわかるんだ! 一族の恥……呪われた童子など、この世に生み出すわけには……っ」
「だからおまえたちはまだ幼い六花の身ぐるみを剥いで村から追放し、金目当ての下位妖怪たちに襲わせて亡き者にしようとしたんだろう?」
さすがに耳を疑った。
りっちゃんはとうとう「いや……っ」と悲鳴に似た声をあげ、私に縋り付いてくる。
「っ、どうしてそれを!」
「知らないはずがあるまい。統隠局を侮ってもらっては困る」
翡翠はお客さまの目の前に立ち塞がると、これまでとは比べものにならないくらいの冷気を纏わせた。──いや、冷気というよりは、神気といった方がいいか。
力の弱いものなら一瞬でひれ伏してしまうような、神という名に相応しい圧倒的な力。張り詰めていた空気に何倍もの重力がかかったような……それこそ息をすることも躊躇う神力に、私は思わずゴクリと唾を飲み込む。