「何度も言うように統隠局が対処するまで待って頂くのが最善だとは思いますが。まあ、一応こちらとしては、お金さえ頂ければご依頼を引き受けることは可能です」
「ほ、ほんとか⁉」
「ええ、この金額を出して頂けるならば」
翡翠はそう言うと素早く電卓を叩く。その速さはただ者じゃない。この金額が目に入らぬかとばかりに客のもとへ差し出した翡翠は、いかにも面倒そうに欠伸を噛みしめる。
お客様はと言えば、それを目にするがいなか目を見開いて大きくのけぞった。
今にも失神しそうなくらい真っ青になり、みるみる血の気が引いていく。さすがに気になってそうっと金額を覗き込み、すぐさま見なければ良かったと後悔した。
――ケタおかしくない……⁉
均等に七つ並ぶ丸が、その非情さを淡々と物語っている。
そりゃあ、いくら面倒な相手とはいえ、翡翠はお客相手に冗談をかますようなことはしないし、おそらく本当にこのくらいの金額が必要になるのだろうとは思う。
とはいえ、さすがにこれは……。
「こんな金、あるわけねえ……」
──ですよね。
「ぼったぐりだと悪評を広められるのは御免なので補足致しますと、今回の件を解決するためには、まず大前提として、人間の術者に外注するという項目をクリアする必要があります。統隠局がすぐに動けないのもその問題があるからです」
「人間の、術者……?」
ちらりとこちらへ向けられた視線にドキッとしながら、私はさっと翡翠の後ろへ身を引いた。どうもあやかしは、私が人の子だとすぐにわかってしまうらしい。
「穢れに穢れた瘴気を祓うのは、我々神でも難しい。瘴気というのはそれほど厄介なものなのです。あなただってご存知でしょう」
「そ、それは……」
「今の世では、まともに術が使える人間など数えるほどしかいない。しかもそんな人間が今回の件でかくりよの存在を知り、もしも悪用しようとしたら、村だけじゃなくかくりよ全体の危機になりかねないと統隠局は危惧しているのです。そんなリスクを背負って、ご依頼を受けると考えれば、この金額は妥当どころか安すぎるくらいだと思いませんか?」
正論を述べているにしろ、ピクリとも崩れない笑顔がじわじわと恐怖を煽ってくる。
しかし、話の内容は思っていた以上に深刻なものだった。
「でも、このままじゃ未来がねえ……ワシら座敷族が滅んじまう。子どもらが巣立てなくなっちまう」
ぴくり、と翡翠の耳が動いた。