「弥生通りの新しい仲間だ。みんな、今夜は気が済むまで飲めよ!」


 まだここに住むと決めたわけではないのに、もうやる気満々の浅葱さんの声にみんなはさらに沸き立った。どこからか、愉快な笛の音が響き始める。

 弥生通りのみんなが勢揃いで浅葱さんのお店へ歩きだす。百鬼夜行という言葉があるが、まさにそれに近い光景で、私はぽかんとしながら翡翠を見上げた。

 翡翠もまた、さっきまで怒っていたくせに口元には「やれやれ」と苦笑が浮かんでいる。
その目元は優しげで、またもやドキッと胸が高鳴った。


「真澄」


 私の視線に気づいた翡翠が「来い」と手を伸ばしてくる。

 隣には優雅に微笑む時雨さん。ちゃっかり私と手を繋ぐりっちゃん。そんなりっちゃんに静かなライバル心を向けるコハク。ほうっと浅葱さんに見惚れる姫鏡。

 こんなに騒がしいのに、なぜか翡翠の声は真っ直ぐ私の耳に届く。

 戸惑いながら翡翠の手をとると、突然カッと反応したりっちゃんが「パパちゃまはこっち!」と自分の反対側の手と繋ぎ直させた。気づけば、りっちゃんを挟んで手を繋ぐ形になっていた私と翡翠は、面食らいながら顔を見合わせる。


「あらまあ、三人とも本当の家族みたいね」


 誰かがふとそう笑い、みんなも笑った。

 ひとり満足そうなりっちゃんの横で、翡翠は不満そうにため息をつく。それでも振りほどこうとしないのだから、なんだかんだ翡翠は娘に甘い。

 なんだかおかしくて、私は声をあげて笑った。

 こんなふうに誰かと笑い合うなんて、本当に久しぶりだった。


「さてと、私たちも行こうか」


 ようやく途切れた涙を振り払って、歩き出す。

 夕暮れに伸びる影は多い方が温かいのだと、私は今日はじめて知った。




 ――そして、次の日。乙女の顔ではにかんだ姫鏡から「浅葱さんのところでお世話になることになりましたわ」と報告を受けたのは、言うまでもない。