「男に天使だと言われたら殺意しか覚えませんが、真澄さまに褒めて頂けるならどのような言葉も今生の幸せ。至極光栄でございます」
その表情とは裏腹に、前半の言葉に背筋が寒くなるようなものを覚えたのは気のせいか。
いや、この全人類の宝のような顔から殺意なんて言葉が飛び出した時点で、私は今なにかしらの地雷を踏んでしまったに違いない。
そうだよね。いくら見た目は幼い男の子だからって、彼は恐らく数百年……下手したら千年以上も生きてきた式神なのだから。安易なことは言えない。
気をつけよう、と心に決めて、私はようやく辺りを見回す余裕を取り戻した。
そして気づいた。ついさっきまで隣にいたはずの浅葱さんの姿がない。
「あれ……? 浅葱さんは?」
「あぁ、彼ならあそこに」
とたんに不安に駆られて立ち上がった私を支えながら、コハクが少し離れた鳥居の近くで木の麓にしゃがみこんでいる浅葱さんを指さした。
「浅葱さん?」
いったいどうしたのかと駆けていくと、浅葱さんがこちらを振り向いた。
――と、ほぼ同時。木の麓からなにかが勢いよく飛び出してきた。目にも追えないスピードで一直線にこちらへ向かってきたそれに、私は急ブレーキをかけて目を見張る。
「っ、真澄さま!」
すぐさま反応したコハクが手を伸ばすよりも先に、何者かに思いきり抱きつかれた。ふわりと香るラベンダーの香り。どこか懐かしく感じるその香りに鼻腔をくすぐられながら、私はひどく困惑したまま硬直する。
「真澄ちゃんっ!」
「……へ?」
透き通った女の人の声だ。聞き覚えは、ない。
「え、あの、ちょっと」
「貴様……今すぐ真澄さまから離れろ。さもなくば、その首斬り落として──」
「あーあー、おまえら落ち着け!」
先ほどはにかんでいた可愛いコハクからは想像できない低くくぐもった声を、珍しく慌てた浅葱さんが遮る。見知らぬ女性に抱きつかれている私とコハクの間に割って入り、修羅場と化したその場を収めるように「どうどう」と両手をあげた。
「コハク?だっけか、こんなとこでそんな物騒なもん取り出してんじゃねえよ。まあ気持ちはわからんでもないが、こいつは別に敵じゃねえから心配すんな」
ほらおまえも離れろ、と疲れたように私から女性を引っ剥がしてくれる浅葱さん。
ようやく抱きついてきた者の顔が見えた。綺麗な人、と思わず目を見開く。