「またこの間の時みたいに暴走したりしないかな……」

「こいつぁ意思持ちだ。すでに半分封印も解かれてるし、恐らく大丈夫だとは思うが。まあ不安ならゆっくり紋を書いてみろ。指先から伝わる霊力の量も多少は加減される」

「わかりました。――やってみます」


 私は覚悟を決めて、先日紋を描いた場所と同じところで腰をおろした。

 あんなことがあった以上、正直怖いと思う気持ちはある。もちろん今回は浅葱さんもいるし、なにかあればきっと助けてくれるだろうけど……。

 私はごくりと唾を飲み込んで、ゆっくりと土に指を滑らせはじめた。

 この前描いたものよりも複雑な紋なのに、描き始めたら不思議と手が止まらなくなる。

 まるで最初から体が覚えているかのように書かれていく迷いのない線。あっという間に紋が私の指先で紡がれていく様を、浅葱さんは感心したように見ていた。

 書き進めていくにつれ、私は体の奥底でなにかがじんわりと熱を持ち始めているのを感じていた。少しずつ、少しずつ。その熱に呼応するように、白ヤモリちゃんと私が淡く柔らかな白い光をまとい始める。


「よし、出来た……」

「上出来だ。お嬢、最後にこの式神に名前を付けてやれ。それが術者と式神の主従契約の証になる」


 真っ白なまるで雪のようなフォルムに、太陽を映したような琥珀色の瞳。何かを待ち構えているように、白ヤモリちゃんは私から目を離さない。

 この子の、名前──。

 不思議と心がつながったような気がした。ぷつん、と頭の中で泡がはじける。


「……君の名前は──コハク」


 まるではじめから決まっていたかのように浮かんだ三文字を呟いたその瞬間。

 淡かった白い光が強く輝いて、私と白ヤモリちゃんを貫いた。キーンと鼓膜を揺らすような耳鳴りがして、辺りの空気がびりびりと震える。

 私の中から、なにかが溢れだしていくのがわかった。それは白い光の中に溶け込んで、やがて少しずつ少しずつ波を引いていく。ひとつのまとまりになるように。

 そして、ようやく全ての光が収まったのと、ぼうっとしていた頭が一気に冴え渡ったのが同時だった。まるで雲が晴れていくかのように視界が明るくなる。
緊張がとけたのか、恥ずかしいことに私はその場で腰を抜かした。あの時と同じように、どてっと尻もちをついて目を瞬かせる。

 ……クスッと笑う声が、聞こえた。