「ちょ、ま、待ってください。まさかこの子が式神なんですか?」
つぶらな琥珀色の瞳をくりくりさせて、私の手の方へ腕をつたいながらおりてきた白ヤモリちゃんを凝視する。いつも通り可愛い。えっ、式神ってこういうもの?
「まだ本来の姿じゃねえが、そういうこった。この破れ具合からするに一割程度ってところだな。やっとのことでこの姿を保ってるんだろうよ」
「でも、この子もうほんと小さい頃から……」
「その頃から、ずっとお嬢のことを見守ってきたってこった。たった一割程度の解かれ具合で意思と姿を保ちつつ、ちゃあんとお嬢を主だと認識してる。すげえじゃねえか」
頭がくらくらしてきそうだ。だって正直、こんなの信じられない。
どこへ行くにもついてくることからも、たしかに私に〝憑いている〟ものなのだろうとは推測していたけれど、まさか式神だったなんて思いもしなかった。
白ヤモリちゃんは私の手から飛び降りペチャッと地面に着地すると、くるりと反転してこちらに向き直った。そうして何かを訴えるように、じっとこちらを見上げてくる。
「早く解放してやってくれねえか。俺も同じあやかしとして、それを見てるのはどうにも虫の居所が悪いんだ。あやかしは基本的に式神ってもんが恐えからな」
「は、はい……でも、あの、どうやって?」
私はそもそも術者じゃない。身を守る程度の簡単な術なら祖母からいくつか教わっているけれど、式神の解放の仕方なんて聞いたこともないのだ。
「端的にいえば、その紙にお嬢の霊力を流し込めばいいんだが……。最初は難しいだろうから、その紋を地面に写してみろ。それだけで霊力は勝手に紋へ伝わっていく」
なるほど、だからあの時も危うく解放してしまいそうになったんだ。
今思えば、どうして突然あんなことをしてみようと思ったのだろう。この二十三年間、たったの一度もそんなことを考えたことはなかったのに。