「お嬢には分からんか。この黙示録自体に宿る力はな、それこそ永遠桜には及ばんでも相当なもんなんだよ。力の弱いものはそもそもこの黙示録の存在すら感知できねえ。式神を解放なんて以ての外。こいつぁ、そういう代物なのさ」

「ということは、やっぱりこれ式神さんが封印されてるものなんですね。それを私、この間あやうく解放しようとしちゃったんだ……」

「ま、そういうこっちゃ。そんでな、この破れた式神が問題になってくるんだよ」


 浅葱さんが言っていた『問題事』とはこのことか。

 現持ち主である私が式神たちの主。そう考えたら複雑な思いが押し寄せて、つい黙りこくってしまう私の頭を、浅葱さんは「まあ聞け」とくしゃくしゃ撫でた。


「この式神は今、中途半端に封印を解かれてる状態だと考えていい。簡単に言やぁ、中身の半分だけ外に飛び出してるわけだな」


 さすがにそれは可哀想だろ?と肩を竦めた浅葱さんに、私は全力で頷いた。上半身だけ飛び出して腰から下はハマったままなんて、想像するだけで痛々しい。


「いいか、お嬢。式神には色んなタイプがいるんだ。オレたちのような妖怪や歴史に記録されるような神々、はたまた術者の思念で作られた意思を持たないモノ、動物、タチが悪いと人間同士でなんてこともある。死んだモンの思念を怨霊として操ったりな」


 そう苦々しい顔をする浅葱さんは、実際にその状況を見たことがあるのだろうか。

 私なんて想像しただけで体が震えそうになってしまうのに。


「だからまぁ、どんなものでも術者と契約した時点で〝式神〟になるっつーわけだ。妖怪や神々を式神に出来るほど強い術者なんて、何百年に一度くらいだろうが」

「じゃあ、この破れちゃった式神は……? 術者が作った意思のない式神ではないんですよね? さっき、自我が何とかって言ってたし」


 戸惑いながら尋ねた私に、浅葱さんは少し驚いたように目を見張った。


「察しが良いじゃねえか。その通りだ。お嬢も心当たりはあんだろ。ずいぶん前から、どこへ行くのにもくっついてきていた〝ソレ〟に」

「え?」


 浅葱さんが私の肩へと視線を動かした。

 そこには、いつものように私にくっついている白ヤモリちゃんがいるだけ──。