「──して、お嬢。空の旅ってのは興味あるか?」

「へ?」

「うつしよへ繋がる永遠桜は、ここからちょいと距離があるんでね。まぁそのぶん帰りは楽だ。……というわけで、ちょっくら失礼すんぞ」


 その言葉とともに、ふわりと宙に浮かぶ浮遊感に襲われた。気づけば浅葱さんに横抱きにされていて、私は小さな悲鳴をあげながら浅葱さんの服にしがみつく。


「ちょ、まさかとは思いますけど飛んでいくんですか……!?」

「はは、よく分かったな。歩いていけば余裕で三時間はかかるが、俺の翼で飛んでいけばせいぜい十分だ。さあて、短い空の旅を楽しんでくれよ」


 そう言うが否か、黒い大きな翼をはためかせて勢いよく空へ舞い上がった浅葱さん。

 急速に上昇中の風が鞭のように体にうちつける。ぎゅっと目を瞑り耐えていると、しばらくしてその強い風が嘘のようにピタリとやんだ。


「お嬢、見てみろ。怖くねえから」


 そう言われ、恐る恐る目を開けてみると、もうずいぶん上空にいた。目を細めるほど下の方に森に囲まれた小さな集落が見える。浅葱さんはまるでスケートリンクを滑るように空気を切って空を飛びながら、はるか彼方に見える永遠桜にまっすぐ向かっている。


「すごい」

「いいだろう、空の旅ってのは。どこまでも続くこの大空の下を飛んでると、色んなもんがちっぽけに見えんだろ。辛いことも嫌なことも忘れて、自由ってもんを感じられる」


 自由、か。たしかにそうだ。こんな広大な空の下では、自分が悩んでいたことなんて大したことなかったのかも、と思わされる。どこか夢見心地で、現実味がなくて。