「起承転結ってのが苦手なんだよ、オレは」

「限度ってものがあります。ただでさえこちらに来たばかりで」

「あーあー、説教は勘弁してくれ。まあ単刀直入に言や、お嬢が中途半端に解放しちまってる〝式神の解決〟と、その鞄の中に入ってる〝なりかけ〟をどうにかして……」

「直入過ぎて尚更わかりませんよ」


 時雨さんが面食らったようにさらに深いため息を零すが、浅葱さんはこれ以上細かくは説明出来ないようで心底困ったように頭を搔く。

 烏天狗というのは、もともと直球型の妖怪なのだと前に言っていたから、冗談ではなく本気なんだろう。それはもう生まれついてのものなので仕方がない。


 それよりも気になるのは……。


「あ、あの、今……式神がどうとかって言いましたよね?」


 いま式神と聞いて出てくるものはひとつしかない。封印を解きかけた時のことが蘇って、背筋にひやりと冷や汗が垂れる。


「まあとにかく、話は向こうに着いてからだ。どっちみちここじゃ術は使えねえからな。お嬢はとりあえずうつしよに行く準備してこいや」

「え、うつしよ?」


 まさか今から向こうに渡るの?と目を白黒させる私を、浅葱さんは容赦なく急かしてくる。烏天狗はせっかちだということを脳内妖怪辞典に加えておかなければ。


「あ、あの、何を持っていけば……」

「式神なんとか……黙示録だっけか? その手帖と、あんたの肩に乗ってるその白いヤモリ。あと、あー、その鞄だな。それで万事解決する」


 式神黙示録と鞄はさておき、どうして白ヤモリちゃんまで?

 まったくもって意味が分からず首を傾げるけれど、なにやら急いでいるようなのでこれ以上訊くのも躊躇われた。考えてみれば、あと数時間もしたら浅葱さんはお店の準備に取り掛からなければいけない時間になる。あまり時間がないのかもしれない。

 とりあえず言われたものを持ち、時雨さんに見送られながら浅葱さんと共に柳翠堂を出る。咥えていたキセルを懐にしまって、浅葱さんはにっと意味深に口角を上げた。