「はーん……さてはお嬢、オレのことを暇なヤツだと思ってんな?」


 優雅にキセルをふかしながら、浅葱さんは喉の奥でくっくと笑う。


「!? な、なに言ってるんですか。そんなこと微塵も思ってませんよ。毎日お店で忙しくしてるの知ってますし」


 ……そりゃあ、用もないのにどうして毎日遊びにくるんだろうとは思っていたけれど。


「ははっ、まあいい。だが今日はちょっかい出しに来たわけじゃねえんだ。お嬢、そろそろあんたの問題事を解決しなきゃなんねえらしいからな」

「へ? 問題事、ですか? 私の?」


 いったいなんのことだろう。

 まさか私が潔く翡翠と結婚せず、許嫁という中途半端な状態でいることだろうか。

 そ、そりゃあ確かに良くないことだとわかっているけれど、さすがに年頃の女がそう簡単に結婚を決めるのは……。


「おい、お嬢? あんた、なんか今とんでもねえ勘違いしたな?」

「え」

「まずは話を聞いてくれ。これは他でもねえ翡翠の坊主からの頼みなんでな。官僚様のお願いったあ、さすがのオレもお粗末には出来ねえんだ」


 ──翡翠からの頼み?

 そんな話は聞いていない。今朝もいつも通りだった。私の作った朝食を『真澄の作ったものは世界一だな』などと真面目顔で褒めて、今日は外に出なければならないから、と心配そうに報告してきただけで……いや、待って。思えば、少しだけ不機嫌だったかも?


「というか、官僚様って」


 困惑しながら目を瞬かせていると、浅葱さんの存在に気づいた時雨さんが慌てたように奥間から出てきた。腕の中にはお昼寝中のりっちゃんの姿がある。

 小さく声を潜めながら、時雨さんは私の隣に並んでため息をついた。


「ちゃんと初めから説明してください。真澄さんが混乱してしまうでしょう」

「なんだ、オメーいたのか」

「六花を寝かしつけていたところです。思ったよりも早いお出ましだったので、気づくのが遅れました。すみません、真澄さん。驚いたでしょう?」


 申し訳なさそうに眉尻を下げる時雨さんに、私は慌てて顔の前で手を振る。