……それは、困る。だってまだ気になることが山ほど残っているし、なによりここは私にとって『探していた場所』なのかもしれないのだ。その確信も掴めていないのに、やってきて早々送り返されるわけにはいかない。
頷きたいのを精一杯堪えて悶絶する私に、翡翠は無慈悲にも答えを促すような視線を向けてくる。なかなかにひどい。そんな究極の選択があるだろうか。
神さまの許嫁になるか、居場所のないうつしよへ帰るか、なんて──。
「……わ、私は、ここにいてもいいの?」
ぐっと拳を握りしめて、翡翠を見つめる。翡翠もまた、真剣な面持ちで私を見つめ返してきた。その手が恐る恐るといったように私の頬に触れて、翡翠の目元が柔らかく緩む。
「真澄がいたいと思うのなら、いつまでも」
「……っ、本当に?」
「もちろん。だがここは弥生から真澄への置き土産に過ぎない。居場所にはなるが、それだけだ。──だから、真澄がかくりよで生きていくと心に決めたその時は、俺が全責任を持っておまえを生涯守り抜くと誓わせてもらう」
心臓の音が、やけに強く耳の奥まで深く響いていた。火照る顔と甘く疼くような熱を持つ体がまるで自分のものではないみたいで、思わず顔を伏せる。しかしそうはさせないというように、頬に添えられた翡翠の冷たい手が真っ直ぐに銀色の瞳へと導いた。
「俺は、真澄が好きだ。真澄には誰より幸せになってほしい。おまえが生まれた瞬間から、その願いは少しも揺らいだことはない」
「どうして……だって、おととい逢ったばかりなのに」
「真澄にとってはな。だが、ずっと見ていたと言っただろう。俺は真澄が案外ドジなところも、それでいて芯が強いところも、実は寂しがりなところも知ってる。……そんなところを含めて恋しかったなんて言ったら、引かれるかもしれないが」
そこまで言って、今度は翡翠の方が照れたように耳先を赤くして目を泳がせた。
もしかして、さっきからずっと自分が熱烈な告白をしていることに気づいていなかったのだろうか。そろそろ私はキャパオーバーなのだけれど。
──と、その時だった。
ごほん、とわざとらしい咳払いが聞こえて、私と翡翠は揃って肩を跳ねさせる。
驚いて振り向くと、いつの間にか背後に立っていた時雨さんがじとっとした目で翡翠を見据えていた。その顔には心底呆れたような表情が浮かんでいる。
傍らには、きょとんとしているりっちゃんの姿。どうやら目が覚めたらしい。私が「あっ」と声を上げるやいなや、彼女は嬉しそうに顔を輝かせてタタッと駆け寄ってきた。