ぷつん、と細く長い糸がこと切れるように目が覚めた。
寝起きそうそう浅く溜め息をつきながら重たい瞼を持ち上げると、ボヤけた視界に真っ白な天井と不自然に伸びた自分の腕が映り込む。ああまた、と思うのはもう何度目か。
私にとって、夢と現実の境目はひどく曖昧だ。夢自体はぼんやりとしているのに、目覚めたとき妙にリアルな感覚がまとわりつく。こうして夢の中と同じ動きをしている時もあるし、ひどいときは自分がまったく知らない場所にいることもある。
いい加減、ちまたで噂の夢遊病とかいうものを疑った方が良いのかもしれない。
「なんだったんだろう、今日のは」
脱力するように頭の上に腕を下ろしながら、私はもう一度、ゆるく瞼を伏せる。
……いつも以上に、わけのわからない夢だった。
ただ、不思議といつものような『予感』はない。どちらかといえば、誰かの昔の記憶をこっそりと覗き込んだような、妙な懐かしさを感じる夢。とはいえ、あの乙女ゲームのセリフに出てきそうなむず痒い台詞を考えれば──万が一ではあるけれど、ここ数年良い出逢いに恵まれなかった私の欲求不満なんてことも有り得るのかもしれない。
起きたばかりなのに、どっと疲れが押し寄せる。これ以上考えても仕方がない。たとえこれが〝いつもの夢〟だとしてもそうでないとしても、私に出来ることは何もないのだ。
気だるい身体を起こしてベッドを降り、私はカーテンを一気に引いて窓を開け放った。
朝の清々しく澄んだ空気が、私の鬱な気分を取り払うように部屋に舞い込んでくる。柔らかく射し込んだ白ばんだ陽に目を細めながら深く息を吸い込むと、ようやく頭の中を埋め尽くしていた濃霧が晴れてきて、私は大きく腕を上げて伸びをした。
私の住むアパートの二階から一望出来る遅咲きの桜たちは、長い坂の頂上へ向かって途切れることなく続いている。最低限の家具だけが並べられた質素な部屋を、この時期特有のほのかな甘い香りが駆け抜けて思わず頬が緩んだ。