「痛かった? びっくりしたね」
「う、うん……だいじょぶよ」
どこか拙い口調でこくりと頷くと、女の子は戸惑ったように私をじっと見た。
──ああ、どうしよう、可愛い。めちゃくちゃ可愛い。
綺麗に切り揃えられた艶やかな黒髪。淡い朱色の花飾りがついたカチューシャがよく似合っているけれど、簪ではないからか少しだけ和装から浮いて見える。
もとより子どもは好きな方だ。それがこんな可愛いの暴力である和風幼女に、少なからず興奮せずにはいられない。ここで出会えば百年目──さしあたっては数枚ほど写真を撮らせてもらいた……。
「ママちゃま、なの?」
「ま……へ? ママ?」
なんて心の中でやましいことを考えていた矢先、思わぬ問いをかけられて面食らう。
「そうよね? パパちゃま」
すいと移動した彼女の目線を追って振り向けば、いつの間にか私の背後に翡翠と時雨さんが立っていた。私と同じように転んだと気づいて駆けつけたらしい。
でも、まさか、パパって──。
ぎょっとして翡翠を凝視した私に、時雨さんは困ったように頬をかく。嘘でしょ、と隣の翡翠を見れば、彼はまたやたらと苦々しい表情を浮かべていた。
「言っておくが、六花は俺の子どもじゃないぞ。居候だ。それに真澄もママじゃない」
「……? 真澄ちゃまっていうの?」
女の子の視線が、時雨さん、翡翠、私とさまよいながら戻ってくる。いまいち状況が掴めないながらも、私は「うん」と頷いてみせた。
「言葉足らずにもほどがありますよ、翡翠。すみません、真澄さん」
「あ、いえいえ」
なんで時雨さんが謝るのだろう。まるで保護者だ。
「この子は六花。座敷わらしの妖怪です。自分は住み込みの働き駒のようなものですが、六花は諸事情で翡翠が引き取った里子でして。ああ言ってはいますが、実質パパなんですよ」
「な、なるほど……」
どうやら複雑な事情があるらしい。
里子とはいえ、まさかの子持ちだった翡翠にはびっくりだが、こんなに可愛い娘がいるのにさっきの態度は頂けない。私なら間違いなく溺愛してしまうのに。