「真澄、簡単にで構わない。自己紹介してやってくれ」

「へっ⁉」


 自己紹介なんて、突然言われても困る。何度も言うように注目されるのは大の苦手なのだ。

 しかし否が応でも視線が集まり逃れられない状況。内心悲鳴をあげながらも、これ以上情けない姿を晒すわけにもいかず、なんとか姿勢を正して私はおずおずと頭を下げた。


「えっと、か、賀茂真澄です。すみません、あの、ちょっとだけかくりよにお邪魔させて頂くことになって……」


 あくまで、下から。あやかしより人間が偉いという態度を見せないように。

 祖母に言われた教えを頭の中で反芻しながら、私は曖昧に微笑んだ。

 かくりよの勝手がわからない今、下手な行動は出来ない。

 もちろん、あやかしは悪いものばかりじゃない。それは私もこの二十三年間で充分わかっているのだ。強いものもいれば弱いものもいる。人の世界よりもそれは顕著で、だからこそ上下関係の区分がはっきりしているし、おかげで秩序が保たれている面もあるだろう。

 だが、それゆえに対応に失敗したときのあやかしは恐ろしかった。数えきれないくらい怖い思いをしてきた経験の方が勝って、どうしたってあやかしを前にすると全身が警鐘を鳴らし始める。うつしよに住む力の強いあやかしは、こちらが弱い部分を見せれば見せるほど、そこにつけこんで私を喰らおうとしたものだ。

 そんな私の緊張や不安を感じているのかいないのか、翡翠は「そういうことだ」と軽く流すと、さも当たり前のように私の手をとった。わずかに震えていることに気づいたのか、一瞬だけちらりと視線が落とされたけれど、とくに触れはせずに皆に向き直る。


「──もうここに集まっているものはわかっているだろうが、言わずもがな真澄は『弥生』の孫にあたる。……おまえたち、くれぐれもこの言葉の意味を履き違えるなよ」


 ふたたび顔を見合わせた通りの人々。

 なんだかにやけているようにも見えて、私は余計に不安に駆られてしまう。

 私がおばあちゃんの孫であることがいったいなんだと言うのか。先ほど言っていたおばあちゃんとお揃いの通りの名前が関係あるのだろうか。

 悶々とし始めた時、パンパンと手を叩く音が響いた。俯きはじめていた顔をあげると、さきほど時雨と呼ばれた彼が相も変わらず優しげな眼差しのまま言った。