私たちを包み込んでいた桜の花びらたちが散り視界が晴れた時、真っ先に目に飛び込んできたのは深い黄昏に暮れる空だった。淡いオレンジの中には大小いくつもの惑星が浮いている。私の知っている月らしきものもあるが、うつしよの月とは比べ物にならないくらいの大きさである。

 あまりの衝撃でその場に立ち尽くしていると、頭上で夢で出逢った桜の大樹が爽やかな風に乗ってさわさわと揺れた。数枚の花びらが四方に舞い踊る。

 高台に位置しているのか、桜の背景にはかくりよのすべてが一望出来た。全体的に緑が多く、色鮮やかな花が彩り、ところどころに集落のようなものが見える。ビルなどは一切見当たらない、見渡す限り、そのほとんどが豊かな自然に囲まれた世界。


「す、ごい」


 やっとのことで、ぽろりと、その一言が落ちた。

 桜の木に背中を預け急かすことなく私が再起動するのを待っていた翡翠は、ふっと小さく笑って隣に並んだ。金色の髪をさらさらと風に揺らしながら、空を見上げる。


「美しいところだろう、かくりよは」

「うん、予想してたのと全然違う……。もっとおどろおどろしいところかと思ってた」

「無理もない。人ならざるモノたちの世界といえば、誰だってそんなイメージを持つさ」


 だが、と翡翠は穏やかな声音のまま続ける。


「あやかしは基本的に人工物よりも自然を好むんだ。こういう原始的な美しさだけなら、うつしよとは比べ物にならない。……まあ昔は、うつしよもかくりよと同じくらい緑にあふれていたんだがな」


 どこか自慢げに、けれど少し切なそうに目を細めながら、翡翠はこちらを見下ろしてくる。


「おまえに、いつかこの景色を見せてやりたいと思っていた。向こうではずっと息が詰まっていたようだし、まあ気分転換くらいにはなるだろう?」


 さあ行こうか、と踵を返した翡翠を慌てて追いかける。首をもたげて見上げるほど大きくそびえる朱い鳥居を抜けて、底が見えない石段をとぼとぼと降りていく。


「あの……どこへ向かってるの? この階段、いったいどこまで続いて──」

「怖がらなくてもいい。かくりよとは常にそういうものだ。惑い、惑われ、揺らぎの先に道がある。正解も不正解もないのさ。時にここは、永遠桜の力で目的の場所へと導いてくれる力があるからな。行き着く先は、惑うことなく俺の家だろうが」


 思わず足が止まりそうになる。それはつまりどういうことかと面食らった私に気づき、翡翠ははたと言葉足らずであったことに気づいたらしい。