「六花もパパのこと好きだから、ちゅーしてあげるね」
そう言うと、りっちゃんは翡翠の頬に嬉しそうに唇を押し当てた。可愛い。
さらに混乱したように「パパ……?」と目を白黒させる翡翠から苦笑しながらりっちゃんを受け取ると、今度は私にも愛のこもったキスをしてくれる。
「ママもだいすき!」
んふふと笑いながら、私の首にぎゅっと抱きついてくる。
私もりっちゃんの頬にキスを返しながら、ちょっとしたいたずら心で翡翠を見る。
「私たちの娘は可愛いですね。──旦那様?」
「っ──!」
その瞬間かあっと頬を染めた翡翠も、娘と負けず劣らず可愛い旦那様決定だ。
私はくすくすと笑いながら、今にも手が届きそうな空を見上げた。
昔は果てしなく遠くて、どうしたら空の上にいけるのか考えて見上げていた空を、今はまったく別の気持ちで見上げている。
そんな私は今、きっと幸せのさなかにいるんだろう。
──この世界は、美しい。
そう素直に思えるくらいには。
「……ねえ、翡翠。月が綺麗だね」
どこからか飛んできた桜の花びらが、その言葉に頷くように舞いあがる。
──私の旦那様が、その意味に気づいて頬を染めるまであと数秒。