「……い、ま……今、好きって言ったか?」

「うん、言ったよ」

「……俺の嫁になるって意味の、好きなんだろうな?」

「当然」

 今さらという思いも正直ある。

 翡翠だって本当は、私の中に芽生えていた気持ちには気づいていたのではないだろうか。いや縁結びの神さまなんだから、むしろ気づいてほしい。

 なんにしろ、私はもう後戻り出来ないくらい、この神様に囚われてしまっているのだから。


「あのね、私、翡翠のお嫁さんになりたい」


 ようやく想いを口にできた嬉しさから、私は照れながらもはにかんだ。

 私が誰かのお嫁さんになるなんて、この二十三年間考えたこともなかったのに、人生なにがあるかわからない。

 こうして出逢えたのは運命なのかもしれないし、偶然なのかもしれないけれど、私たちの間に生まれた縁はきっと最初から繋がっていたんだろう。

 縁結びを司る翡翠が繋ぐまでもなく。


「──俺も、真澄が好きだ」


 いいか、と訊ねられ、頷いた。翡翠の端麗な顔がさらに近づき、そっと唇が重なる。

 優しい、ただ触れるだけのキス。

 それでも触れた先から熱を帯びて、全身に心地の良い甘みが全身に伝わっていく。


「あー! チューしてるー!」


 ──なんて時に、そんなはしゃいだ声が響いたものだから。

 私と翡翠は飛び上がり、あんまり慌てすぎてそのままふたりして中庭へ転がった。

 ゴデンッと鈍い音が響き、体に衝撃が走ったけれど、翡翠が下敷きになってくれたおかげで痛みはない。


「だ……大丈夫か、真澄」

「う、うん、ありがとう」


 声の響いた方を見れば、時雨さんにコハク、りっちゃんが三者三様の反応を示しながらこちらを見つめている。

 私は一瞬にして、夜闇にも紛れないほど全身真っ赤に染まった。


「ようやく、と言ったところですかね。やれやれ」

「うぅっ……真澄さま……どうかボクを捨てないでくださいね」

「六花も、六花もするー!」

「ちょ、まっ、りっちゃんあぶなっ」


 トタタッと廊下を走って一瞬の躊躇もなく縁側からこちらに飛び跳ねてきた娘を、慌てて体を起こした翡翠がなんとか受け止めた。

 怪我をしなかったことにホッと胸を撫でおろす。


「ねー、パパ?」

「おまえな、六花……ってパパぁ?」


 いつの間にか『ちゃま』が抜けていることに面食らい、私と翡翠は顔を見合わせる。