「翡翠」

「…………」

「ねえ翡翠ってば。あの……あ、私の顔になんかついてない?」

「……顔? なんだ、虫か?」


 なんのことだと困惑しながら振り返り、翡翠は怪訝そうに寝転がる私を覗き込む。


「別になんもついてな──」


 そんな翡翠の首に、私は思い切ってぎゅっと手を回した。ホールド作戦である。


「な、なんだ? ちょ、真澄、手を離せ。近っ……」


 身動きが取れなくなって、翡翠は間近にある私の顔に驚いたのか、大袈裟に目を泳がせる。

 さすがに焦りすぎた。長い時を生きてきた神さまとは思えない初心な反応に、つい笑ってしまいそうになる。本当に、びっくりするほどわかりやすい。

 けれど、負けず劣らず自分の頬が火照っていることにも気づいていた。


「……聞いて。翡翠、私のことずっと守ってくれるって言ったよね?」

「あ? ああ……まあ、それは言ったが」

「なら、そう簡単に諦めないで。……本当に伝えても良いのか不安になるから」


 いつかの夢の中で、翡翠は私に告げた。

 ──必ず迎えに行く、と。

 そしてここに来た時、翡翠は私に誓った。

 ──生涯おまえを守り抜く、と。


 出逢った頃から、翡翠は各紙もせずに私を好きだと言ってくれていた。

 優しさから生まれる厳しい言葉に泣いたこともあったけれど、全て含めて心の底から私を想ってくれているからこそ。それは、やっぱり愛情だった。

 私をあの途方もなく孤独な暗闇から掬い上げ、ただ真っ直ぐに私を大切にしてくれる翡翠に、渇き切った心で温もりを求めていた私が堕ちないわけがなかったのだ。

 翡翠の銀の瞳が夜闇に浮かんで、戸惑いの色を揺らす。その中に、隠しきれない熱が紛れていることに気づかないはずもない。私たちはずっと見て見ぬふりをしてきたけれど。


「──私、翡翠が好きだよ」


 結局、それ以上の言葉は見つからなかった。

 大きく目を見開いた翡翠は、反射的に体を引こうとして、しかしホールドされていたのを忘れていたのか大きく体勢を崩す。不可抗力ながら私の上に覆い被さるように肘をつき、さらに近くなった私へ視線を落として、翡翠はなぜか切なそうに眉間を寄せた。