「お察しの通り、俺は人間ではないな。見た目こそ人の子と同類だが」
そりゃあそうだろう。宙に浮いていたのだから。見た目だって、こんなに非の打ちどころのない人間はそうそういないし、わかるものには異様だとわかってしまう。
「まあわかりやすく言えば、縁結びの神さまだ」
「縁結びの……神さま?」
肯定するように頷きながらいじっていたスマホを袖口にしまうと、神さまと名乗る彼は改めて私と向き合った。銀色の瞳がこちらを捉えて、優しく微笑まれる。
「──改めて、俺の名は翡翠。よろしくな、真澄」
ふわりと優しい風が頬を撫でた。美丈夫というのに相応しい顔で見つめられたらたまったものじゃない。
私は慌てて視線をそらしながら、どきどきと高鳴る心臓に手を当てて首を振った。騙されるな、私。相手はそもそも人間じゃない。
「本来なら然るべき時におまえを迎えにいく予定だったんだが──これもまた運命のいたずらか。はたまた縁の定めか。まったくこの世には解せんことが多くあるな」
「……迎えにいく?」
つい最近、聞いた言葉だ。そう、今朝、夢の中で。
偶然だろうか、と戸惑う私の手を取って、翡翠という男は少し切なそうに目を細めた。
まるで波が凪ぐかのような瞳。神さまなんてやっぱり嘘なんじゃないかと思うくらい人間らしい表情から、つい目が離せなくなってしまう。
「あ、あなたは、私のなにを知っているんですか……っ」
わずかに続いた沈黙に耐えきれず、手を振り払いながら尋ねてしまった。
私の質問に、神さまはわずかに逡巡してから小さく息を吐いた。
「それは〝人ならざるモノ〟が見える体質のことを言っているのか? それともおまえの身に宿る膨大な霊力のことか?」
「っ──!」
さすがに度肝を抜かれる。神さまはあまり触れたくなかったことを口にしてしまったかのように、どこか気まずげな表情を滲ませて私から目を逸らした。
微かに茜色を含み始めた木漏れ日を着物に映しながら、気を紛らすように腕を組み「知ってるさ」と少しばかり重いその口を開く。