「コハクの中にはもうエネルギーとなる霊力が残っていない。人の子の身体を維持し、その歪な魂を救うには新たなエネルギー源が必要になる」
「……新たな……」
「そうだ。式神であるコハクを唯一助けられるのは、正式な主である真澄だけ。──すなわち、繋がりの根源である魂を分かち合えるのも、真澄だけだ」
魂を、分かち合う?
言葉の意味がわからず、私は戸惑ってコハクを見つめる。もうほとんど消えかかっているコハクは、聞こえているのかいないのか、わずかに瞼を揺らしただけだった。
「式神の種類には二つある。ひとつめは、なにかしらの個体を持ち契約をして式神となるもの。……ふたつめは、魂の縁を結び、それを共有することで生まれる式神だ。後者の方法を使えば、コハクを救うことが出来るかもしれん」
「魂の縁を、結ぶ?」
「ふたつの魂をひとつのものとして共有するんだ。この世界で最も強力な主従関係と言ってもいい。この方法を行えば、おまえたちはその身体に宿る魂と霊力を互いに分かち合い、文字通り死ぬまで……生涯を共に生きていくことになる」
翡翠の言葉がなにを示すのか。なにを危惧しているのか理解するのに時間がかかった。
「……離れたくても離れられなくなる。どちらかが死ねば、もう片方も死ぬんだ」
それが魂を共有する、ということ。私の命を丸ごと、コハクに預けるということ。
「言っておくが、この縁を結ぶものなど千年の時の中でもほぼ存在しない。人の子と妖では時の流れもその価値も大きく異なるゆえ、寿命の短い人と繋がり命の起源を無駄にする妖などいるはずもないからな。しかも、この方法は半ば禁忌だ。リスクが大きすぎる」
魂の相性が悪ければ、最悪両方の魂が消滅してしまうかもしれない。
縁が上手く結ばれなければ、どちらかの記憶がなくなってしまうかもしれない。
どちらも本気で魂が重なることを望み願わなければ、決して果たされることはない。
それでもやるか、と翡翠は訊いた。強がりも嘘も許さない、という目で。
だけど、私は一切、迷うことなどなかった。