「……コハクがいなくちゃ、私は生きてこれなかったよ……」


 もしもこれが運命だというのなら、私は心の底から運命を呪うだろう。

 もしもさっき誰かが私にかけた言葉が、こうなることへの導きだったのなら、私はその声の主を心の底から憎むだろう。

 でも、そんなのは言い訳だ。本当は、それほど大切な存在を失おうとしているのに、助ける方法がなにひとつ浮かばない自分が心の底から恨めしいのだ。
尽きようとしているひとつの命を前に、こんなにも無力なんて。

 私は、また……失ってしまうのだろうか。

 心の底から、大切な人を。


「──真澄」


 翡翠がコハクを挟んで膝をつき、私の名前を呼んだ。

 涙でぐしゃぐしゃになり、もうこれ以上かける言葉も出てこない私は、顔を上げることも出来ない。しかし翡翠は、めげずにふたたび私の名前を呼ぶ。


「コハクを、助けたいか」

「……え?」


 幻聴だろうか。思いもよらない言葉が耳をついて、私はゆっくりと翡翠を見つめた。


「助け、られるの──?」

「真澄がそれを望み、コハクもまたそう望むのなら……ひとつだけ、手はある」


 こんな状況においてなによりも朗報のはずなのに、翡翠の歯切れが悪い。その瞳は私と同じくらい揺れており、同時にどこか迷っているように見えた。