「こ、はく……?」
私の身体から発された光の粒を纏いながら、ひどくぼろぼろの姿で地面に倒れていたコハクを頭が認識したとき、私はようやく本当の意味で意識を取り戻す。
一歩一歩、生まれたての小鹿のような足取りで近づく。目の前まで行けば、もう疑いようもなくコハクであることは明確で、私はガクッと崩れ落ちるように膝を落とした。
ぷつんぷつんと弾ける光の上から震える手でコハクを抱き起こし、腕の中に抱きしめる。
「……ねえ、嘘だよね?」
私の声が聞こえたのか、うっすらと開いた瞼から琥珀色の瞳が覗いた。そこに映り込む私はとめどなく涙を流していて、初めて自分が泣いていることに気づく。
「ますみ、さま……」
「やだ、やめてよ……こんなのいやだよ……ねえ、なんで……」
コハクからは、もう霊力が微塵も感じられなかった。コハクが生きるために元主から授かったという、命の源。エネルギーが完全に底をついていた。
琥珀色の瞳からひと粒の雫が流れ落ち、私の頬から伝った涙と混ざり合う。
翡翠たちが駆け寄ってきたことに気づいたけれど、振り向く余裕はない。私はコハクの氷のように冷たくなった手をぎゅっと握りしめ、ただただ涙を流し続ける。
「──真澄さま、顔を、あげて。ボクのためなんかに、泣かないで、ください」
私はいやいやと首を振るけれど、コハクは私の頬をぼろぼろの手で包みこんだ。指先が優しく雫を拭う。氷のように冷え切ったそれに、びくっと肩が揺れる。
「真澄さま……ボクはずっと、あなたを、お慕い申しておりました」
「そんなの、知ってるよ。知ってるから、だから、もう喋らないで。きっと、きっと私が」
「いいえ……今じゃなきゃ、だめなんです。あなたは……ボクの、全てで。ボクの、ただひとりの、主です。だから、どうか──笑ってください」
こんなこと信じたくない。信じられない。
コハクの言葉に嘘はないことなどわかっている。けれど、今こうしている間にもなけなしの霊力が失われているのに、冷静にその想いを受け入れられるほど私は大人じゃない。
「大丈夫……あなたは、強い人だ。それに、もう、ひとりじゃないでしょう?」
ほら、とでも言いたげにコハクは翡翠たちへと目を向ける。
そうだ。たしかに私はひとりじゃない。孤独だったあの頃が信じられないくらい今の私には大切な人がたくさんいる。けれど、それはコハクも同じなのだ。コハクは誰よりも私のそばにいてくれた。家族だった。かけがえのない存在だった。失うなんて、ありえない。