「──臨・兵・闘……者・皆……」
自分がどこかで聞いた、しかし知らない言葉を発していることにも気づいていたものの、まるで自分じゃないものに操られているような感覚で、勝手に口が、身体が、動く。
闇に染まっていく頭の中に、聞き慣れない……なのにどこか懐かしい声が響いた。
『──彼を救ってくれて、ありがとう。真澄』
全身に鐘を打ち鳴らされているかのように響いたその声が止むと同時、私ははっと意識を取り戻す。その瞬間、私の体から膨大な霊力と共に目も眩むような光が弾けた。
「なっ……」
思わずもう一度ぎゅっと目を瞑る。体中から凄まじい勢いで霊力が流れ出し、激しい眩暈と動機に襲われるものの、なんとか両足を踏ん張って耐える。倒れるわけにはいかない。
だって、この感覚を私は知っているのだ。──私がはじめて、式神黙示録の封印を解きかけてしまったとき、自分の意思ではないなにかに突き動かされたあの時と同じだから。
さきほど私が唱えていた呪禁は、祓いの術だ。しかし私が知るものとはレベルも種類も全く違う。あれは、恐らくかつて陰陽師と呼ばれた者が用いていた陰陽術のひとつ──。
いまだ頭の中に余韻を残す声。知らない男の人の声だった。知らないはずなのに、ひどく胸を揺さぶられるのはなぜなのか。思い出せ。……本当に私は、『知らない』?
ゆっくりと、瞼を持ち上げる。
深い霧がかかったように霞む視界に映ったそれら。錯乱した思考が停止し、絶句した。
「……なに、が」
私の身体から溢れた真っ白な光が、波紋上に辺り一面に広がっていた。
何が起きたのか分からず、私は震える自分の体を見下ろすことしかできない。まだぼんやりとはっきりしない意識のまま、幾千もの光の粒が弾ける世界を見届ける。
そうして気づいた時には、悪霊の魂も辺りを覆い尽くしていた瘴気も綺麗さっぱりなくなっていた。一掃された周辺は、あれだけ満ちていた嫌な空気が嘘のように澄み切っている。
雷雨の前を思わせる厚い雲も晴れ、薄暗かった村に眩しいほどの太陽の光が筋となって射し込む。なにもかも終わったのだと察するには、十分だった。
……そう、それで終われば良かった。
元凶であった悪霊が祓われ、問題となっていた瘴気も浄化され、恐らく無事であろう村長と、焼き討ちを免れた枝垂れ村、そんななにもかも理想の形で終われば、良かったのに。
一面に広がっていた光が収まり、霧がかっていた視界も晴れて。
なのに、外すことの出来ない視線の先には未だまだ光の塊がある。
──それが、『彼』だと気づくのに、時間がかかった。