「──だから、どうかボクにもっと頼ってください。甘えてください。あなたが望めばボクはなんでもする。なんにだってなれる。あなたの願いを叶えることがボクの天命です。これまでも、これからも、真澄さまは唯一無二の、ボクの主ですから」


 命じてください、真澄さま。

 そう言うコハクは、どこか吹っ切れたような顔をしていた。

 主の命がなければ、式神は動けない。私がだめだと、許さないと言えば、コハクが危険に飛び込んでいくことは避けられる。何に取って変えても私が守る、という選択も生まれる。

 けれど、式神としてこの世に生み出されてからずっと、コハクは自分が生きている意味を探していた。別の魂の持ち物だった人の子の体、神霊の魂、それらと歪な形で結びついてしまった白ヤモリの魂は、ただ救いを求めていたんだろう。

 いい加減、解放してくれ。いい加減、眠らせてくれ。そんな声を受け止め続けてきたから、コハクは自分の存在を否定せざるを得なかったのだ。犠牲になった者たちの想いを背負い、たった一人だけ生きながらえてしまったからこそ、罪の意識を拭えなかったんだ。

 ──そんなコハクに、主である私がしてあげられること。

 考えなくても分かっていた。それでも失うのが怖かった。私を置いていなくなってしまった両親と祖母のように、コハクもいなくなってしまうと思うとたまらなかった。

 けれど、そんなにも真っ直ぐに私を想ってくれていたら、もう何も……言えないよ。


「無理はしないって、約束して」

「はい」

「絶対に帰ってくるって、約束して」

「はい」

「……コハクを、信じるからね?」

「はい。真澄さまとの約束は、死んでも守ります」


 ねえ、コハク。

 私はきみに会うまで、誰かを信じることがこんなにも辛いことだとは知らなかったよ。