「私は、コハクにずっと救われてきた。いつだって支えられてきた。もう歩けない、立ち上がれない、進めないってなった時、コハクはどこにいたって私の前に現れて真っ暗な道を照らしてくれた。温かい灯り。立ち上がるための杖。進むための追い風。あなたはそのすべてを、まだ封印も解けていない頃から私に与えてくれてた。本当に感謝してるんだよ」
だからどうかいなくならないで。消えようとしないで。
「……それ、は、当然なんです。だって真澄さまは、ボクの生きる意味だったから」
でも、とコハクは今にも消え入りそうな声で続ける。
「ボクは、何者でもなくて。何にもなれない自分が、真澄さまのもとにいて良いのかひどく不安になるんです。ボクのせいで主を傷つけてしまったら、そう考えると夜も眠れない」
「コハク……」
「けれど、二十三年前、産声をあげながら小さな命を必死に掴んでいたあなたを見たとき、ボクはこの方のために生きていくと誓いました。だからこそ……傷つけたくない。守りたい。真澄さまだけは誰にも譲らない。──式神としてだけではなく、ボク自身の中に根付いてしまった真澄さまへの想いが強すぎるがゆえに怖くなる。あなたを、失いたくないから」
言葉を紡げば紡ぐほど、迷子の子犬のような表情をしたコハクの顔が定まっていく。やがて一切の迷いのない、行く先をはっきりと見据えた瞳になったとき、私はどうしようもなく嫌な予感を覚えた。真澄さま、とコハクはこの世のなによりも優しい笑顔で微笑む。
「あなたと出逢い、この世界がこんなにも美しいものだと知りました。ボクにとって、なによりも大切なのは真澄さまです。あなたのお役にたつことは、ボクの幸せです。全てを捧げると誓ったあの瞬間から、真澄さまはボクがこの世界で唯一……愛する人です」
私の手に自らの手を重ね、まるで宝物でも扱うかのように優しく包み込む。そのまま口元へと誘われ、震える指先に掠めるようなキスが落とされた。
「……きっと、忠行さまもボクにこの気持ちを知ってほしくて命を与えて下さったのだと思います。あのまま死んでいればボクという存在は生まれず、今も他の誰かがあなたをお守りしていたのでしょうから。ああ、そう考えると、ちょっと妬けちゃいますね」
くすり、と花が咲くようにコハクは笑みをもらす。