「なん、ですか?」
「真澄。──おまえ、どうしてブログを更新しない?」
「は?」
……一瞬、聞き間違いかと耳を疑った。
面食らいながら「ブログ?」と尋ね返した私に、男は至極真面目な顔で顎を引く。
「4月7日午後4時28分を境に、現在5月2日午後2時12分までまったく更新がされていない。これはいったいどういう了見なのか答えてもらわないことには、俺もおまえの質問に答えられないぞ。何故だ? 何故更新しない?」
「え、いや、それは……」
──確かに先月の頭から、ブログは更新していない。それは紛れもない事実だ。
だが、どうしてこの男が知っているのだろう。私が数年前から趣味でやっている日常ブログなんて、それこそ読者は数えるほどしかいないのに。
もしかして誰かと人違いしているのではないだろうか、と思い至った矢先。
「『ますみのひとりごと』という何の捻りもないブログ名も俺は好きなんだが、最近あまりに更新がないから心配していたんだ。そんな矢先にこれだからな。なにか悩みでもあるのか」
「ああ……それは間違いなく私のブログ……」
「? だからそうだと言っているだろう」
羞恥で顔に熱が溜まっていくのがわかった。誰にも読まれることはないだろうと垂れ流していた心の吐露を、こんな形で問い詰められることになるなんて控え目に言って最悪だ。
だいたいこの状況でそれを持ち出してくるとは──いったいどういう了見だと言いたいのは完全に私の方である。もしかしてこの男、新手のストーカーか何かだろうか。
「……更新しないのは、少し体調が優れなかったというか……」
「体調? ああ、そういえば最近あまり眠れていないんだったか。夢見のせいだな」
「だからなんで知って……⁉」
間違いない、ストーカー確定だ。〝彼ら〟から付け回されるのは日常茶飯事だけれど、ブログの更新日まで把握されているなんて恐怖以外のなにものでもない。
唖然を通り越してショックからフリーズしかけた私の前で、さらに男は袖口から信じられないものを取り出した。
「す、スマホ……」
その手に握っているのは、どう見ても、人が使っているものと同じ携帯端末。
あまりに信じられない光景にあんぐりと口を開けて、思わずそれを凝視してしまう。
「ああ。先日発売されたばかりの最新式薄型スマホだ。300グラムという超軽量型で防水機能付き。文明の利器というのは実に素晴らしいな、真澄」
ふふん、と誇らしそうに口角をあげながら、彼は手馴れた様子でスマホを操作する。
「あの、こんなことを窺うのもどうかと思うんですけど……人間じゃないですよね?」
さすがにここまで驚くことばかり続けば、一周まわって落ち着いてくるというものだ。妙に冷静になりながら尋ねて、自分の肝の座り加減にうんざりする。
支えられてなんとか立ち上がりながら、私は怪訝な眼差しを男に向けた。