「……コハクは、心のどこかで『消えたい』と願ってるよね。違う?」

「っ……」

「さっきの言葉を聞かなくても気づいてた。コハクが自分の存在を負い目に感じてることも、主である私に対してどこか恐れを抱いていることも、周囲の者達を信頼していないことも。それらは全てコハクの存在に関与しているから、たまにふっと気配が消えるんだ」


 霊力は持ち主の心の有り様によって、如何様にも変化する代物だ。私はそれをコントロールするために修行をしてきたけれど、実際にその力が暴走した時にどれほど制御が利かなくなるのかを知っている身でもある。あれは不慮の事故のようなものだったが、もしも無意識化で『消えたい』という思いが、一生命の影を拭い取ろうとしていたら……。


「私が主だからかな。コハクの気配の濃淡って私には手に取るようにわかるの。だから不安になる。あなたが本気で消えようと思った時、私は止めることが出来るのか。止める資格があるのかって。過去を聞いてしまってからはなおさら自信がない」


 コハクにそばにいてほしい。隣でここにいるよと笑ってほしい。

 それは私のわがままだ。主としてのエゴもある。けれど、そんな一方的な想いだけで、もう千年以上も苦しみから逃れられないでいる式神を引き留めて良いものなのだろうか。

 だって、自傷の激しいコハクの痛んだ心を救うには、もしかしたらその方法しかないのかもしれない。『消える』のは、彼にとってようやく訪れる休息なのかもしれない。人の身勝手で生み出され、これまた身勝手に式神とされ、その命を休ませることすら奪われた彼が──否、彼らの生命が、もう解放してくれとそう訴えかけているのかもしれないのに。


「……でも、でもね、コハク」


 わかっているのだ。ちゃんと、頭では。ただそれ以上にどうしようもなく、私にはコハクという存在が必要で、彼の『消えたい』という望みを受け入れることが出来ない。