「ボクにとって、真澄さまが二人目の主です。長い眠りから醒めて、白ヤモリの身体のまままったく姿を変えた世界を彷徨っていたボクの前に、まだ赤ん坊だったあなたが現れた時、ボクはすぐに確信しました。──このお方が、新しい主様だと」

「……それは、私が賀茂の血筋だから? おばあちゃんの孫だから?」

「いいえ。弥生さまは確かに黙示録の持ち主……管理者ではありましたが、我ら式神の『主』ではありません。それ以前の管理者も同様に、『主』ではない。なぜなら我ら式神が、彼らを『主』だと認めなかったからです。ゆえにこそ、真澄さまが現れた時、ボクは……」


 そこで言葉を切ったコハクは、わずかに瞳を揺らして眉をひそめた。いつも穏やかな彼とあまり一致しない表情に、心配になった私はコハクの頭に手を伸ばす。

 そっと触れれば、コハクは驚いたように目を見開き、ピクリと肩を揺らした。


「……コハクはたまに、なにかを怖がってる時があるね。いや恐れているの方がいいかな」

「っ、え?」

「可愛くて癒されるだけじゃない。コハクは強くて優しくて頼もしい式神だよ。だけど、ふとした時に不安になる。私が目を離した隙に消えちゃうんじゃないかって」


 私の意図が読めないのだろう。頭を撫でる手を振り払うこともせず、しかし混乱しているのか防ぎきれなかった風の刃が私の肩をぎりぎり掠めて背後の地面に突き刺さる。


「っ、真澄さま!」


 さっと顔を青ざめて腰を上げかけたコハクを『大丈夫だから』と優しく押し戻す。


「──ねえコハク、聞いてもいいかな」

「は、い」


 こんな状況でもなお、今を逃したら後悔すると本能が訴えていた。

 きっとこの先は触れられたくない部分なのだろうと察しながら、それでも逃がすまいと目の前にしゃがみ込み、硬直するコハクの真っ白な頬に手を添える。