「邪気は霊力で祓えます。真澄さまの祓いの御札を上手く使えば、恐らく近づくチャンスは出来るはずです。時雨さんの作戦もこうなることを見越してのものでしょう」
「祓いの札……」
しかし恐らくあのふたりは、それに気づいていない。気づいていても、村長の身体に貼り、悪霊本体に貼る分を考えたら自分に使う余裕はないのだろう。
私が持っている残りの祓いの札は二十枚。これはこの辺り一帯の瘴気を祓うために必要な最低枚数だ。渡してあげたいのは山々だが、ここでこちらの札をなくせば後で取り返しがつかなくなってしまう。だからと言ってこの場で御札を書けるわけもない。
──どうすれば……。
残りの札を握りしめながら、ぎゅっと強く唇を噛み締めたその時、コハクが「真澄さま」という呼びかけと共にすっと私の前に跪いた。何事かと目を見張る。
「ボクが行って参ります」
「え? 行くって……まさか、ふたりのところに?」
コハクはやや癖のある白髪を揺らして「はい」と顎を引く。
「ボクが持つ残りの御札をおふたりの身体に貼ってきます。ご命令を」
「でも、そんなことしたらコハクが……っ!」
見ていればわかる。笹波様と浅葱さんは、妖怪の中でも群を抜いて強い。上位妖怪と称されているふたりが、あんな膨大な妖力を消費しながら戦っているのだ。
それにも関わらず、かつての主から分け与えられた限りある霊力で生を得ているコハクがあの場に行けば、間違いなく霊力が大幅に失われて命が危険に冒されるだろう。