「……さすがに厄介だな」
翡翠が苦々しい顔をして呟く。
「中位レベルの妖怪でも悪霊に憑かれると力の制御が利かなくなるんだ。あまり酷使しすぎると許容範囲を超過して器の方が先に崩壊しかねん。そうなればあの男は助からない」
「た、助からないって死んじゃうってこと?」
翡翠は答えない。代わりにコハクが「恐らく」と苦し紛れに続けた。
「死、というよりは消滅に近いのではないでしょうか。力に呑み込まれ魂まで喰い荒らされれば、もはや残るのはただの屍です。体さえ残るかどうか曖昧なところですが」
一瞬、りっちゃんにひどい言葉を吐き捨てた時のことが頭によぎる。
あの男は、私の大事な娘を傷つけた。罰せられるようなことをした。
けれど、それでも『死』と聞いてしまってしまったら、放っておくことなど出来やしない。
きっとここで救わないという選択をしたら、心優しいりっちゃんはまた新しく傷を作ってしまう。あの子はそういう子なのだ。困っている人には必ず手を差し伸べるような──。
「っ、翡翠! 私は大丈夫だから行って!」
石を割りに行かなければならないのに、私を守っていたらいつまで経っても行けない。そう言い放つや否や、私はすぐさま二本指を立て左手に御札を握りしめた。