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 ズズ……ズズズ……。

 封印石のまわりを這い回っていた村長は、枝垂れ村に降り立った私たちに気づくとぴたりと動きを止めた。身体中に真っ黒な靄と切り裂くような風をまとい、こちらをじっと見つめてくる。恐ろしいほどに窪んだ目と赤茶色に染まった肌は、この間のお客さまとはとても思えない。思っていたよりもずっとおどろおどろしい姿に、思わず息を呑む。


「……ジャマ……モノ……オマエ……」


 そしてなぜか私を一点に見つめてきた村長は、次の瞬間カッと目を見開いた。


「ジャマ……オマエェェェェ……!」


 さすがに悲鳴をあげかけた。人の姿に戻ったコハクがすかさず前に飛び出し、私を守るように背中に隠す。同時に笹波様と浅葱さんが、目にも追えないスピードで飛び出した。


「ったくよぉ、俺様がわざわざ来てやったんだ。ちっとはこっちも見やがれ!」

「残念だが、お嬢にはやることがあるんでね。オレたち相手で我慢してもらうぞ!」


 その瞬間、大きく吠えた村長を纏っていた黒い靄と風が何倍にも膨れ上がった。


「ひっ……!」


 少し離れた私の方まで巻き込んだそれは、まるで鋭利なナイフのように空気を切り裂き、猛烈な瘴気を発している。咄嗟に三人まるごと神力の防護壁で包み込んだ翡翠のおかげでなんとか怪我は免れたが、あれをまともに食らったらひとまりもない。

 突っ込んでいったふたりが心配になるけれど、それぞれなんとか身を守ったらしい。笹波様の手には妖力を纏わせた刀が、浅葱さんの手には団扇が握られていた。