「突然も何も、最初からそう伝えているだろう。だがこういう状況だ。何が起こるかなんてわからない。だったら伝えられるときに、しっかりと伝えておくべきだと思ってな」

「伝えられる、ときに……」


 両親と祖母が事故で亡くなり、何の前触れもなく私の前からきえてしまったことを思い出す。身をもって知っているはずなのに、いざそう言われると戸惑いしか生まれない。

 だってきっと、ここで消える可能性があるのは『私の方』だから。

 ここだけじゃない。今回の件を乗り越えても、人である私と神さまの翡翠では見ている世界が違うのだ。どうしたって、私はいつか翡翠の前からいなくならなければならない。


 ──そのとき、きっと私は翡翠を傷つけてしまう。


 好きだと、愛しいと、愛していると、惜しみもなく伝えてくれるこの神さまをひどく悲しませてしまう。大切な人がもう手の届かない場所に行ってしまうのはとても辛いことだ。

 それを思うと、どうしても返せない。答えに迷いが生じてしまう。

 黙りこくってしまった私に、翡翠は咎めるわけでもなくふっと表情を和らげた。

 いつもの余裕たっぷりな色気すら感じる笑み。

 思わずハッとすると、男性のくせにあまりに美麗すぎる指先に頬を優しく包み込まれる。

 そのままふわり引き寄せられ、額同士が優しくぶつかった。


「俺は真澄を信じる」


 触れ合う場所から伝わってくる想いは、温かくも少しだけ寂しくて。

 けれどそんな想いこそが、翡翠の『好き』の形であり、私の胸にひっそりと隠れている想いとも通じているのだとわかる。どうしようもない壁に阻まれてもなお消えない想いは、ほんのわずかでも弱い私の心に灯りをともしてくれる。踏み出す勇気を与えてくれる。

 もう一度、ここで決意しよう。

 私はかつて嫌いだったこの力で、私の大切なものを守るために戦う。ようやく手に入れた幸せな日常を、壊したくない大切な日常を、この先もずっと続けていくために戦うんだ。

 そして胸の奥に隠した翡翠への想いは、この戦いがすべて終わったら打ち明けよう。

 ──大丈夫。私は、賀茂真澄は……天下の陰陽師の末裔だ。


「信じて。──きっと、やり遂げてみせるから」