「──覚悟は良いか、おまえたち」
全員の顔を順に見て、最後に私で目をとめた翡翠の瞳は、いつもより強い銀の光を放っていた。私はすでに凝り固まった身体になおのこと力を入れて、こくりと深く顎を引く。
「ヘマすんじゃねぇぞ、真澄」
「最大の目的は悪霊を祓うことだが、お嬢は自分を最優先にな。あんたが危ねえってなった時は、オレたちもお嬢を最優先に助ける。頑張れよ」
いたずらな顔でニッと笑ってみせた笹波様、優しい言葉をかけてくれる浅葱さん。
ボクが必ずお守りします、とでも言いたげに私の頬にチュッとキスをしてくる白ヤモリちゃん──もといコハク。それを見ていた翡翠が一瞬、明らかな殺気を発したけれど、コハクは何食わぬ顔だ。ひときわ強い風が私たちを取り巻いて、四人の着物をはためかせる。
「……はあ、前途多難だな。俺の恋路を邪魔する奴が次から次へと……しかもなぜこうも面倒な輩ばかり絡んでくるんだか。くそ、真澄は俺のものだ」
「あ、あの、翡翠? 大丈夫?」
なにやらひとりでぶつぶつ言いだした翡翠を戸惑いながら見上げると、何とも言えないような顔でこちらを見下ろしてくる。え、ほんとになんだろう?
「──真澄。俺は、おまえが好きだ。この世のなによりも、おまえを愛しく思ってる」
「ひぇあっ⁉」
あまりに突然の熱烈な告白に変な叫び声が出た。浅葱さんがブホッと吹き出し、笹波様は「やべぇ砂吐きそう」となぜか真っ青な顔を背けて口元を抑える。コハクは何かを見定めるように琥珀色の瞳をじっと翡翠に向けて、どうやら成り行きを見守るつもりのようだ。
「あ、あ、あの、突然、どうしたの?」
翡翠に許嫁のことを告げられた当時とは全く違う感情が胸を支配する。
この神さまへの想いを図らずも自覚してしまいそうになる。というより、きっともう誤魔化しがきかないくらいの場所まで来てしまっているのだろうけど。