その間に翡翠は石に結びついた縁を切り、逃げ込める場所を壊す──そういう戦法だ。

 前線で戦うふたりには十枚ずつ御札を渡しているけれど、正直足りるか心配ではある。一発で貼れたら文句なしの大成功だが、恐らくそう簡単にはいかないだろう。

 翡翠も縁を切る前に石を浄化しなければならないので数枚、私のそばに控えて守りに徹してくれるコハクにも一応ながら数枚渡しておいた。

 もちろん私自身も持ってはいるけれど、なにせぶっつけ本番の御札作りだったため、全ての御札が上手く作用してくれるかはわからないのも不安要素のひとつである。

 だけど、今さら逃げ腰になっていても仕方がない。

 私は自ら結界を張り、瘴気から身を守りながらその時が来るまではひたすら待機だ。まずは、無事に結界を張るところから成功させなければならない。


「見えてきたな」


 やがて、ぽつりと翡翠が声を落とす。

 速度を落としてゆっくりと止まり、上空から辺りの惨状を見て、私たちは絶句する。


「こりゃ思ったよりひでーな。報告よりも瘴気にやられてる範囲広いんじゃね?」

「こんな上空でも、わずかだが空気に瘴気が混じりあってる。この程度ならまだ身体に被害はないが……真澄もいるしな。気をつけるに越したことはない」


 忌々しそうにそう言うが否か、翡翠は私たちを一箇所に集めるとパチンと指を鳴らした。

 淡いベールのようなものが私たちを包みこみ、途端に嫌な臭いがしていた空気が清く柔らかいものになる。どうやら神力の防護壁らしく、結界と同じような効果を持つらしい。


「しかしまあ、枝垂れ村はすでに壊滅状態じゃねえか。畑も木々も何もかも枯れ果てちまってる。住民は大丈夫なのか?」


 たしかに、それは私も気になっていた。

 浅葱さんの言葉に頷いて笹波様を見ると「心配ねぇよ」と素っ気なく返される。


「住民にはすでに統隠局から退避勧告が出てっからな。今は誰もいねぇだろ」

「退避勧告、ねえ。まさか一帯ごと焼き払おうとしてるなんて民は思ってないだろうに……」


 本当にそうだ。本来ならかくりよに棲むあやかしたちの平穏に暮らせる環境を守るための統隠局が、いくら小さい村とはいえ住民のことを一切考えない決断をするなんて──。

 翡翠や笹波様のように、今回の件に反対した他の官僚もいるかもしれない。それでも阻止できないほどの権力を持ったあやかしが、統隠局にはいるのだ。そう考えるとぞっとする。