「ともかくおまえたちはヤツの相手に集中しろ。俺は悪霊が封印されていた石をかちわるのに忙しいからな。……これほど自分が縁結びに精通していることを恨んだことはない」
一方の翡翠はひときわ面倒そうに言い放つ。
昨夜、この役目が決まってからというものずっとこんな感じだ。石を割りに行く間は必然的に私から離れないといけないため、そばで守ることが出来なくなる。それが不満らしい。
「変なところに縁が生まれやがって……。そんなに石に執着するもんか?」
「長らく封印されていたのなら、もはや我が家のようなものだろう。いわば半身だ。取り憑いたものの残滓が残れば完全には祓えない。だからそこに生まれた縁を切り、物体的な意味で石を木っ端微塵に破壊する作業は欠かせねえ。文句言うなよ、ひい坊」
「その名で呼ぶなジジイ!」
どうやら翡翠はだいぶ気がたっているらしい。むきになる様子はなんだか子供みたいだ。
しかし、そんなことに気を取られている場合じゃない。つまり……村長の身体から悪霊が離れ、なおかつ翡翠が封印石の縁を切って破壊した瞬間が私の出番なのだ。
元来目指していた『もう一度封印をし直す』という手もあるにはあるが、それではいずれまた同じことが起きてしまう。だったら、これを機に悪霊にもそろそろ楽になってもらった方が良い──というのが参謀担当である時雨さんの見解だった。
悪霊祓いに必要な御札は、昨晩のうちに書けるだけ書いた。言うまでもなく、これも祖母に仕込まれたもののひとつである。御札にはいくつか種類があるが、私がこれまで主に使用していたのは護符なので、清めの御札にはあまり自信がないのだけど。
とはいえ、時雨さんからもオーケーを貰えたので恐らくは大丈夫だろう。
筆に私の霊力を流し込み、御札そのものに清めの効果をもたせている。あたりの瘴気の浄化にも必要なため、寝不足ながら死ぬ気で数十枚こさえてきた。
それぞれに役割があるため、誰かに頼るということが出来ないのは不安だった。
浅葱さんと笹波様は悪霊が村長の身体を抜け出すように、まずは村長に直接、清めの御札を貼り付けなければならない。抜け出したら今度は、悪霊本体に御札を貼り付ける。悪霊ほどになれば御札だけでは浄化しきれないため、貼り付けた御札を通して私が祓う。