枝垂れ村があるのは、かくりよの最北端。柳翠堂からはだいぶ距離がある。

 そのため例によって飛んでいくことになったのだが、私とコハク以外のみんなは自由に空を飛べるため、仕方なく私は翡翠に抱きかかえられて運んでもらうことになった。ちなみにコハクは白ヤモリの姿に変化して、これまた例のごとく私の肩の上。

 時雨さんとりっちゃん、姫鏡に見送られ、まだ朝日が上がりきる前に柳翠堂を発った私たちは、一直線に空を切るように進みながら昨晩の作戦を再度確認する。


「浅葱のおっさんと俺様でヤツの相手をするのは良いが……問題は、どう中身を引きずり出すかってか。ちっ、外身を傷つけずにってのが面倒だな」

「瘴気を放つほどの悪霊が妖怪に取り憑いているんだ。まあ相当、骨が折れる相手になるのは間違いねえだろうな。油断してたらこっちがやられちまうね」


 悪霊に憑かれて暴れ回っていると情報が入ったのは、この間うちで騒ぎを起こしたお客さまだ。りっちゃんの故郷である座敷村の村長で、妖力は中位妖怪レベル。

 本来なら高位妖怪の浅葱さんや官僚レベルの笹波様の敵ではないが、今の彼は瘴気を吐き出す悪霊の力と混ざり合い、並大抵のあやかしは近づけない状態にあるらしい。

 ──瘴気は触れた全てのものに害を及ぼす。

 強者たちが揃いもそろって苦い顔をするのは、それほど瘴気というものが厄介な代物であるからだろう。ただでさえその辺り一帯は瘴気に満ちた状況だ。瘴気から身を守りながらの接近戦は、さすがのふたりでも分が悪いのかもしれない。