「りっ、ちゃん……?」


 顔を上げると、私の手を包みこんだりっちゃんが「ママ」と優しい笑みを浮かべていた。いつの間にか泣きそうになっていたのは、私の方だった。


「六花は、ママだいすきよ」

「っ……」

「ママはね、いっぱい幸せくれるの。だから六花は、だめな座敷わらしだけど、ママにたくさん笑ってもらえるような座敷わらしになるって決めたの」


 ──呪われた子。

 りっちゃんはきっと、心の中に棲みついた鋭利なナイフのような言葉に、ずっと傷つけられてきたのだ。村を追放されてここに来てからもずっと。寝ている時、よくうなされて夜中に泣きながら飛び起きるのもきっとそのせいだ。

 それでもこうして、私を励まそうとしてくれている。

 小さな手で私の恐怖を拭ろうとしてくれている。

 私と出逢って、私をママにしてくれて、満面の笑みで大好きと言ってくれる。

 私はこの笑顔を守ってあげたい。そう思ったから、強くなろうと思ったんだ。


「──できるかな、私に」


 りっちゃんの故郷を救うことが。

 みんなの、役にたつことが。


「できるよ、ママなら!」


 ぎゅっと抱きついてきたりっちゃんを抱きしめ返して、私はようやく覚悟を決めた。

 娘にこんなに背中を押されているのに、いつまでも泣き言なんて吐いていられない。


「──笹波様」


 顔を上げて、面食らったように私たちを見ていた笹波様をじっと見据える。


「私は悪霊を祓ったこともないし、瘴気を浄化したこともありません。霊力と向き合ったのは最近だし、式神を解放しようとして力を暴走させたこともあります」

「……」

「悔しいけど、それが事実です。でもだからこそ修行を始めました。守らなければならない者を守るために。……そうしたら不思議と、今まで嫌いだったこの力を受け入れられるようになってきたんです。まだまだ、わからないことばかりですけど」


 この世界も、この世界に住むモノ達も、本来なら私は関わることがなかったはずだ。

 けれどこうして今、私はここにいる。その縁に意味がないなんて思いたくはない。


「私は私なりに毎日努力してきたつもりです。だから、生意気だけどもしかしたら……ってどこかで思っちゃってる自分がいます。そんな私を信じてくれますか」


 救えるか救えないか。祓えるか祓えないか。

 そんなこと頭で考えたってだめだ。やってみなければわからない。考えてみれば、私は昔から実戦型だった。臆病なくせに、たまに妙な所で突っ込む癖がある。